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 空白だったのだ。そこはあの、空白だったのだ。
そう、白い世界だった。何も存在しない世界。

ここはいわゆるあの世と呼ばれる場所だったのだろうか。ひどく冷静な気持ちだった。
身体もなく白い空間に意識だけが漂っている。暑くも寒くもない。皮膚は死に絶えたように何も感じない。

そもそも肉体が存在しない。物体として自分という存在を認識できる要素が、何一つこの空白にはなかった。
もしこれが永遠だったとしても、何も感じないのだから楽かもしれないと思った。

「私の声が感知できるか、エメザレ」

 目の前にあの、馬のような優しい目が現れた。暗く大きくすべてを知っているかのような静かな目。

「感知できている」

エメザレはとてつもなく冷静だった。

「第五代目にあたるプロトタイプ、『エメザレ』への実験はこの死をもって全て終了した。残念ながらこのデザインは採用されず、破棄されることが既に決定している」

「ここは何」
「ここは世界機構と基本世界を隔てるクッションのような場所だ。このように、とりあえずの応接間として使うこともあるフリースペースだ。ここには概念しか存在しない。私と君の。私はスクリーンに表示されているだけだ。君も表示させよう」

下を見る。
足が表示されている。手もある。手が動く、顔を触った。傷がなかった。右目も見えている。ガルデンの軍服を着ていた。
だが皮膚の感覚が奇妙だった。手も足も自分の意志で動かすことができるのに、自分のものではないようだった。

「君は表示されている。十六歳の、美しい君だ」


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