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「形式的にはね。だけど僕は夢を見て思い出したのさ。あの時、君が来た時、暴虐ロードで一緒に遊ぼうって君を誘ったら一緒に遊んでくれただろう。その時なんだかほっとしたんだ。言葉が通じるんだなって思ってさ。馬鹿だろ。君は狂ってるから意思の疎通ができないと思ってたのさ」

「ちゃんと通じてるよ。こうなった今でさえ」
 エメザレは微笑んだ。もちろん嘲笑を含んでいる。

「その夢の中では君と遊べてすごく嬉しくて、それで思い出したんだ。君といて楽しかった日々を。なんであんなに楽しかったんだろうな。変なところに閉じ込められて、ひとの殺し方を教わって、外に行って戦ってたくさん殺してただけなのに、なんでこんなに楽しいことを思い出すんだろう」

「若かったんじゃないかな。若いって、それだけで奇跡みたいなことだから」

それから、ヴィゼルはとりとめのない思い出話を話し続けた。たくさんの保存していた思い出を話すことで再生するかように、一方的に話し続けた。
光り輝いていたと思った。その時、確かに楽しかった。

ヴィゼルの言った通り、何が楽しかったのかはわからない。でもこの瞬間、頭を巡るのは、無邪気なたくさんの笑い声のような思い出ばかりだった。

だが、ふっと言葉が消失したかのように、ヴィゼルの話が止まった。
話し終わったわけではなく、話の途中で終わってしまった。言葉の再生が放棄されると、途端に静寂が訪れた。

ヴィゼルの顔を見ると、そこには何とも言えない、なんとも表現し難い、厳しく冷たくそれなのに耐えきれないほどに辛そうな悲しみと、そして深い深い愛情の念が湛えられていた。すべてが矛盾して交じり合ったような表情だった。

「エメザレ」

ふいにヴィゼルはベッドの柵を越え、土足でベッドに乗り込むとエメザレを抱きしめた。
その身体は震えていた。ヴィゼルは震えながら、しがみつくみたいにエメザレを抱擁した。
それからしばらくエメザレという存在を名残惜しむように動かなかった。

「君からはいい匂いがする」
「ルーノリアの花の匂いでしょう。ここにいるとみんな同じ匂いになる」

ヴィゼルからは、懐かしいガルデンの匂いがまだしていた。エメザレを育て、ひとの殺し方を教え、魂が壊された場所だ。それなのに泣きたくなるほど、この匂いが好きだった。

「エメザレ、今日僕が言ったことはすべて本当のことだ」
「うん」

それだけ言うと、ヴィゼルは何事もなかったようにベッドから降りた。
夕日が沈んでいくところだった。森は焼き尽くすかのような赤い光に照らされている。

「エスラールは相変わらず令嬢との婚約を渋ってるよ」
ヴィゼルは帰り際にそう一言を残した。


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