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白い髪が黒い髪を支配すること約四百年。白い髪の劣悪な支配の限界はすぐそこにまでやってきていた。この国、クウェージアでは王族貴族は全て白い髪で、黒い髪は市民の位すら与えられなかった。

黒い髪の反乱が頻発し、彼らは白い髪の国外追放を要求した。

元々白い髪は隣国スミジリアンの王家であり、四百年前の国王が双子であったことで起こった、王位継承戦争で、敗れた王子がクウェージアに亡命してきたことから白い髪の支配が始まった。

つまり長い歳月をかけて国が乗っ取られたことになる。元の国に帰ってほしいと黒い髪は主張した。

頻発する黒い髪の反乱を抑えるため、白い髪は最も有能な黒い髪を宮廷に招くことを約束したが、結局は招かれた黒い髪のエメザレは宮廷で悪しきものとして扱われただけだった。

さらに白い髪の王子がエメザレを庇ったがために、王子へ悪影響を与えたと国王の逆鱗に触れ、結果としてはそれが原因で酷い拷問を受けた。

両脚と右目を失い、左目の視力もだいぶ落ちた。顔にはかつての面影などは微塵もない。左手はもう動かない。

エメザレは孤児であり、そして軍人でもあった。

この国クウェージアは貧困で、いつも黒い髪の農奴は飢えていた。育てることのできない黒髪の子供を国がわずかな金で買い取って、女児は外国に売り払い、男児は死ぬまで戦い続ける軍人にした。

クウェージアはそんな男の孤児たちを『愛国の息子達』と呼んだ。

軍人としてエメザレは有能だった。そして、かつてのエメザレは綺麗だった。

十人が十人、誰が見ても、彼にどんなに否定的でも美しいことだけは認めただろう。広大な砂漠で一輪だけ咲く、特別な花のように、軍人たちの中で異様な色彩を放っていた。

エクアフ種族である彼らの肌は、黒い髪も白い髪も、みな一様に真っ白な乳白色だったが、エメザレの白い肌は、細い静脈で一本一本繊細に描かれる青味と、上気したような赤味が合わさり、思わず惹きつけられるような肌の色合いだった。

漆黒の黒い髪は、何もしなくても常に潤いを持っていて、絹のように輝く細い直毛だ。深い暗闇に似た黒い瞳は、見つめるものを惑わせ、時に残酷な命題を突き付けるような強さを持っていた。

華奢な身体は軍人には到底見えなかったが、それでも圧倒的に強かった。儚げな印象とは裏腹に、武術であれ剣術であれ、エメザレに勝てる相手はごく僅かだった。

そして驚異的な頭脳の持ち主でもあった。シクアス語もダルテス語もほぼ完璧に話すことができた。軍事教育所ガルデンで、歴代最高の成績を持っているのはエメザレだった。

最も有能な黒い髪に、最もふさわしかっただろう。

だから黒い髪たちはエメザレに期待した。規格外に美しく賢く、軍人として過酷な環境で生き抜いてきた強さを期待した。

だが、かつて英雄と呼ばれ、たくさんの人々の希望であったエメザレの名は一瞬にして失墜し、全ての失望を彼のせいにした。黒い髪たちは彼への興味を失い、まるで最初からいなかったかのように忘却した。

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