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私がいると汚いからでしょう。私が一番汚いからでしょう。私を浄化することで世の中を、君の周りの世界を、綺麗にしたかったんでしょう。私は目障りだったんだ。君の正義の美しい王国で僕は浄化されなければ耐えられない存在だった。

愛してるっていうんだろう。だってあんなにも優しい気持ちを籠めて、魂を削って、ありったけの穢れない愛を注いで、僕を救い守り支えて讃えて、僕という存在を綺麗にしたのだから。もしずっと僕が汚かったら、君は僕を消去したのかな。


ここはどこなんだろう。昔来たことがあるだろう。ここを覚えているよ。見てよ。ここは空白なんだ。そうだよ。空白だよ。そう、少年だった時見たことがあるよ。あの恐ろしい蹂躙の日々よ。自分という肉体を貪り食う何十人の同胞たちよ。あの粘膜を覚えているよ。

そうだよ。思い出したんだ。白いだけの空間。空白みたいに何もない、何も感じない絶対的な領域。どんな蹂躙にも耐えられる最強の要塞だ。誰も踏み入れてはこない。悪い眼差したちもここまでは到達できない。そうだよ。昔と同じだ。エスラールがいなくなったから元に戻ったのさ。すべては戻ってきたのさ。

結局は空白に戻ってこなくてはいけなかったんだ。あの時みたいに昔みたいに守ってくれるのはこの空白しかない。空白だ。ここは空白だ。もう透明なのだ。もう存在しない。概念だから。何もないんだよ。ここには何もないんだよ。なんて静かなんだろう。なんという平静。なんて静かな気持ちなんだろう。だけど一体何を言っているんだろう。一体これは何なんだろう。でももう何もないんだ。

離れないで……離さないで……離れたくないの。抜かないで……中に出して……中にいて。温かい。温かいから。寒いのは嫌なの……ずっと、中にいて。

「ああ。抜かないで何回だって抱いてやるよ。お前今、どこにいるんだ。今、何も聞こえてないんだろ。どこにいるんだ。昔の世界か。ガルデンというあの黒い建物の箱の中で閉じ込められてた。男しかいない世界で、みんながお前に欲情しただろう。十六の時のお前。さぞ綺麗だっただろうな。毎日犯されてたんだろう。昔からいろんな奴に。

そいつらがお前を作った。お前を壊した。こんなに破壊したのに、それなのに、あの黒い箱を出た途端に、女という存在が飛び出してきて、みんなお前を捨てたんだろう。壊れたお前を見捨てて、他人事みたいに触れないように目をそらして、外の世界に出たのに男に抱かれ続けるお前を否定する。あんなに散々に気が狂うほど犯しておいて。それなのに女を抱けないお前を軽蔑する。

お前が悪いんじゃない。お前は環境に順応して、それを利用して生き延びようとしただけだ。何も思わず何もかも破壊できる拷問師の俺みたいに。なんでそれが悪いことなんだ。なんで否定され続けて嫌悪されないとならないんだ。俺たちは間違ってなんかいない。俺たちは環境によって生成されたのさ。環境が作り出した化け物だ。環境が勝手に作り出したのに、俺たちは与えられた苦界を乗り越えてきただけなのに、それなのに俺たちの生き様を、さも当然のように否定する。正しさを振りかざして俺たちを嘲笑う。

こんなお前を抱ける邪悪なる拷問師と、お前みたいな壊れてる化け物が、毎日のように昼から酔い狂って男同士で抱き合ってるから嗤うんだよな。俺たちは醜いな。物体として最高に醜い塊だ。俺たちは邪悪なのかな。邪悪ってなんなんだ。俺たちは何なんだ。

なぁ俺が動いてるのちゃんと感じてるのか。もう、それもわからないのか。お前どこにいるんだ。感じろよ。俺を。俺を見ろよ。愛してなんかいないけどな。俺は男なんか愛さないから、愛してなんかいないけどな、捨てられた猫みたいにたまらなくお前が愛おしいよ。聞いてるか。もっと動いてやろうか。死にそうになりたいだろう。お前今どこにいるんだよ」


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