4/6 抱かれないと気が狂いそうになる。 部屋に一人でいる時、世界から分離しているような気がして、どこかへ行きたくて、誰かに会いたくて、逃げたくて、外に行こうとして、抱きしめてほしくて何度もベッドから落ちた。 床で這いずっている時、虫みたいで惨めだった。 みんなと一緒に行きたかった。心だけでも共に居たかった。 冷たい床で藻掻いているとドアの隙間から明るい光が見えて、地平線のように綺麗だった。 あの地平線の向こう側へは、もう行くことはできないのだろう。 どこへも行けない。ここからは逃げられない。 死ぬまで快楽に溺れて絶望に立ち向かうしかない。 あまりにも頻繁にベッドから落ちるので柵が取り付けられた。なんだか鉄格子に入れられてしまったみたいで悲しかった。 ベッドの隅で縮こまって、ひらすらずっと毎日毎日酒を飲んでいると、過去と現在が交差して錯覚に陥った。 幻だとしてもそれでいい。だって本当に見えているのだから、それは現実と変わらない。 昔のことを思い出す。今起きていることのように鮮明に思い出してしまう。 捨てられた子供みたいな気持ち。不安で心細くてどうすればいいのかわからない。 捨てられた時、エメザレは小さすぎてそのことが理解できなかった。母親はいつか戻ってくるのだと思ってずっと待っていた。 あの時、捨てられた時、ものすごく綺麗な燃え盛る夕日に向かって歩いていく母親の背中を今でも覚えている。 母親は今どこにいるんだろう。自分を捨てたことで彼女は何かが変わったのだろうか。 自分が生まれたとき彼女は優しく抱きしめてくれたのだろうか。せめてそうであってほしい。そうしたら、それを保証してくれたら、まだ少しだけ救いがある気がする。 還りたい。 戻りたい。 その時、誕生を祝福し、もし抱きしめてくれたのだとしたら同じ気持ちで今どうか抱きしめてほしい。母親はどこに行ってしまったんだろう。なんでこんなところに置き去りにしたのだろう。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |