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「エスラール、君みたいに綺麗に生まれて来れなくてごめんね。自分のそばに私を置けば、いつかこの性癖が直ると信じていたんでしょ。最後まで直らなくてごめん。今まで本当に苦痛だったでしょう。本当にありがとう。優しさをくれて嬉しかったよ。でももう、私を受け入れてくれるひとができたから大丈夫だよ。

君だったら良かったのにと思った。あんなに優しく何度も君から愛されたことなかった。抱かれることが気持ちいいことだって嬉しいことだって思い出してしまった。やっぱり私は男に抱かれるのが好きだったみたい。私はそういう意味で罪悪感を抱いたのかもしれないな。

君がせっかくあんなに綺麗にしてくれたのに、私はまた穢れてしまったね。赦せなかったんでしょう? 本当はずっと私のことを君が一番赦せなかったんだ。抱いたら汚してしまうから自分も汚れてしまうから、ある時それに気が付いて抱けなくなった。君が知らなくても私はわかってたんだよ。

でもそれを君は愛だと言うんだよ。穢れなき愛だと言うんだ。みんなそれならば納得して我々を認めてくれるだろう。だから私を抱けなかったんでしょう? 君にとって私のすべては邪魔な存在だ。君の美しい世界に私は必要ない。そう、最初から」

「どうして、どうして、君を救えないんだろう。抱けないという理由で君を救えないのだとしたら、どうして俺にはその機能がついてないんだろう」

「君が美しいからだよ」

「救いたかった。君を素敵な世界に、どうにか連れて行ってあげたかった。君に向けられる悪い眼差したちから永遠に守ってあげたかった。この世界は素晴らしいと、その片鱗を少しでも感じてほしかった。大好きだったから。ずっと悲しいより、ちょっとでも楽しい方がいい。生まれてきて良かったと、少しでもいいから思ってほしかった。愛していたから。心から。心から愛してる。愛してた」

知っている。
エスラールはエメザレに向けられる嫌悪の眼差しをたくさん潰したかったのだ。
世の中の悪意がいつもどうしても許せなくて、エメザレに向けられる悪意を追い払って守ることが使命なのだと、ずっと信じ込んできただけなのだと思った。

あの悪意の目をひとつひとつ潰す時、いいことをしている自分に納得して安心していたのだろう。
でもあの眼差しは蛆のように無限に涌いてきて完全に駆逐することなどできない。

「泣かないで。もうわかってるから。できないならわかれて」

エメザレはエスラールを抱きしめた。もうそう言うしかなかった。

その日、エメザレとエスラールの約十年間続いた恋人関係は終焉した。

エメザレは愛国の息子達に、恋人関係を正式に解消したことを伝える手紙を書き、その証明として血判を添えて彼らの気持ちに応えた。


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