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エメザレは冷静でいるような気さえした。どうしてジヴェーダの前でこんなに泣いているのかよくわからない。きっと酔っているのだろう。酔っていて状況がうまく認識できていない。

泣いていることはわかるが、止め方がわからない。嗚咽が止まらない。

「もう、別れるしかない」

エメザレは絞り出すような声でやっと言った。

ジヴェーダはそれ以上何も聞いてこなかった。泣き続けるエメザレを見ながら黙って酒を飲んでいた。

エスラールの庇護の元でエメザレは輝けた。エスラールがいなければ、エメザレは嫌悪の眼差したちに潰されていただろう。エスラールには人徳と統率力があり、エメザレにはクウェージアきっての頭脳があった。いわゆるエスラール一派の形成過程で、エメザレは役に立ってきたはずだった。

数時間、飲み続けた。人生でこんなにも飲んだことはない。

「私、昔からわかってたんですよ。本当にわかってたんです」

多分その声が聞き取れなかったのだろう。寝転がっていたジヴェーダはソファから身を起こすと、エメザレのベッドに腰かけた。何も言わずに冷静すぎる顔でエメザレを見ている。

「だって私は男だから。エスラールに初めて会った時、私はまだ少年だった。十六歳だった。女性との性差は今よりずっとなかった。どちらかと言えば小柄だったし、中性的とも言えた。声変わりもまだだった。だから私とできた。

いつも思ってた。このまま成長が止まればいいのにって。きれいな少年のままでいたかった。もっと美しく生まれてきたかった。外の世界へ戦いに行く時、いつも恐かった。だって女の人に会ってしまうから。女性の美しさや柔らかさに、男の私が敵うはずない。私では癒せない。

ほとんど強制の儀式みたいなものだったけど、エスラールが初めて女性を抱いた時、すごくすごく悲しかった。私は女性相手では吐いてしまって駄目だった。あの時の女の人、優しくて美しかったのにできなくて申し訳なかった。エスラールは異性愛者だもの。私、知ってた。

もう私は愛してもらえないんだと思って、一人で泣いてた。でもエスラールは我慢してくれた。私を愛していたから肉体を我慢してくれた。こんなに男になっても、まだ好きだって言って肉体を我慢してくれた。きっと苦痛だったはずなの。

本当に、本当に好きだった。私なんか愛してくれて、本当に好きだった。私、この身体になって安心したんです。だってこんなに化け物みたいな見た目になったら、抱けないのなんて当たり前でしょう? 抱かれないという理由でもう変に傷つかなくて済む。

エスラールもきっとホッとしたんじゃないかと思う。もう私という男をもう抱かなくていいから。その理由ができたから。肉体から精神に昇華したと、多分エスラールは喜んでいた。だってそのほうがみんなに誇れるから」

自分でも何を言っているのかよくわからなかった。泣きじゃくっていたので半分はおそらく伝わらなかっただろう。

少し間を開けてからジヴェーダは言った。

「そうか。お前、女だったんだな。やっとわかった。俺は間違えてた。

俺はお前が綺麗だったからそんな気分になったんだろうと思っていたけど、男相手になんでこんな、女とやる時みたいに、なんか得したような気分になったのか不思議だったが、意味が分かった。お前の本質が女だからだ」

「でも私はもう終わり。私の役割は終わってしまった。なんだったら、もう十六歳で、外の世界に出た時に、私の役割は既に終わってた。私は強かったけどもう右手しか動かない。美しかったかもしれないけれど、もうこんな見た目だもの。本当はまだこの頭脳が残っているから、もしかしたら役に立てるかもしれないと思っていたけど、もう必要ないみたい。

エスラールを失って、時代の流れをこの場所で死ぬまで傍観するだけ。私は抹消される。私はいなかったことにされる。私はもう終わり。もう終わりたい」

「俺を呼んだのはそれが目的なのか」

ジヴェーダはベッドから立ち上がり窓の方を見た。窓から見える森は漆黒の暗闇だ。

「悪いが俺はお前を殺せない。色々と事情があるんでね。お前だって気付いてるんだろう」

「エスラールの動向が知りたかったんでしょう。私にした行為によってエスラールが怒るだろうから。エスラールは大勢の愛国の息子達を動かせる力があるから。いつか反乱軍に加担するだろうから。だから私を手元に置いた。エスラールが、あの一派がどう動きだすのか情報がわかるように」

「わかっているなら、何で俺を呼んだんだ。まぁ頼れるのが俺しかいないのは理解するが、それにしても頼む相手を間違えてるな。お友達に頼め」

再びベッドに戻ってくるとエメザレを見下した。大柄なジヴェーダは聳え立っているように見える。

「私には友達なんかいない! あなたがいるから誰もここにはやってこない。エスラールでは私を殺せない」

エメザレは唐突に押し倒された。

「お前の存在は本当に堪らないな。憐れで、愛おしい」

目の前でジヴェーダが静かで冷徹な笑みを浮かべている。


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