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「何の用だ。わざわざ俺を呼び出すなんて」

不服そうに、というわけでもなさそうだが、ジヴェーダはだるそうな顔をして部屋の中に入ってきた。

「来てくれたんですね。ジヴェーダ様」

「別に。他にも用があったんでね」

ジヴェーダの片手にはすでに酒入のグラスがあった。

二日前、エメザレは看護婦レイテに、ジヴェーダに会いたいと伝えてほしいと頼んだのだ。素直に来るとも限らないし、どのみち来るまでにしばらく時間がかかると思ったが、二日後に訪れたのは意外だった。

「お酒、くれません?」

 エメザレが言うと、ジヴェーダは最初驚いたが途端に気が抜けた顔をした。

「なんだ、酒が飲みたかったのか。待ってろ」

 更に意外な親切を見せて、ジヴェーダは部屋を出て行った。

 戻ってきたジヴェーダはいつもの酒のセットを乗せたカートを自分で引いてきた。

「ほら。あとこれ、置いてってやるよ」

 いつもより多めにボトルを持って来て、二本机に置いた。ジヴェーダを待たずに自分の好きな時に酒が飲めるのは有難いことだった。

エメザレは特に酒が好きなわけではなかった。付き合いで嗜む程度。こんなふうに酒に救われる日が来るとは思ってもみなかった。

「ありがとうございます」

「自棄酒か。愚痴でも聞いてやろうか」

「聞いてもつまらないだけですよ」

あまりジヴェーダに話すつもりはなかった。ただ、酒を飲めば、酔った思考でうまく処理できて、不安定な気持ちを鎮めることができるかもしれないと思っただけだ。

エメザレは自分でも驚くほどに酒を飲んだ。元々二人の間に会話はあまりない。

時々、昔のことを話したり、生い立ちや、とりとめのないことについては話したことがあるが、友人というには沈黙が多すぎるようにも思う。だが過ごした時間が長かったのかもしれない。

大した会話もしていないのに、なぜかお互いその気持ちの流れを読める。心地のいい沈黙の友達だ。

ジヴェーダは特に話しかけてこない。

一時間近く、エメザレはただただ酒を飲んでいた。どうにかして酩酊しようとしていたのかもしれない。一言も会話もせずにひたすらに飲めるだけ飲んだ。

ボトルを一本開けたくらいで、涙が溢れてきた。ジヴェーダの存在など気にしなかった。というより自分でも泣いていることにしばらく気づかなかった。

「お前、自分を見失うにも程があるだろう。拷問しても呻き声ひとつ上げなかった誇り高き英雄様はどこへ行った。お前の姿を王子に見せてやりたいよ」

ジヴェーダに言われたが答えることができずに、泣きながら飲めるだけの酒を浴びるように飲み続けた。

「エスラールと別れるように言われたのか」

涙が溢れている。自分の気持ちとは関係ないと思った。

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