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彼らが気を利かせて、エスラールだけを残し去ったあとでエメザレは言った。

「ここは拷問師ジヴェーダ様が建てた施設なんです。だから気を付けて」

エスラールは信じられないというような表情を浮かべて眉をひそめた。

「エメザレ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

「何もされてないよな」

「されてないよ。エルド系の教会病院に比べたら楽園だと思う。とてつもなく丁寧ですよ。

ここにはジヴェーダ様の恋人がたくさんいるみたい。顔は美人なんだけど胸が片方なかったり、指がなかったり、足が不自由とか。外の世界じゃ生きていけない女の人を囲ってる。みんな囲われてそれなりに幸せみたいです。綺麗な服を着て着飾ってもらって環境に安心してるみたい。

不思議な場所だけど、それで助かっているひともいるからね。私もそうだけど。ジヴェーダ様は別にそんなことしなくてもいいんですよ。だって仕事でしたんだから。尻拭いなんてしなくていいでしょう。でもきっと気に入ったからかもしれないけど、救っているのは事実じゃないかな。本人は否定するでしょうけど」

「そうか。エメザレは優しいね。言っていることはわかるよ。俺に怒ってほしくないんだろ。

でも俺は許せないな。多分、出会ってしまったら無理だと思う。目の前に現れたらほんと多分無理。君をこんな風にした。あんなに、あんなに綺麗だったのに。

救えないのが辛い。君をここから出そうとしたが駄目だった。ガルデンに君をサーテドルインに迎えたいと申請したが拒否された」

愛国の息子達には、あいかわらず、強い制約がかかっていた。格段に自由にはなったものの、ガルデンの支配下にあるのは変わらない。

エスラールはエメザレの長い髪を撫でた。丁寧に手入れされている髪の毛は艶やかで、それが唯一エメザレに残されたかつての名残のようだった。

「ごめんね。こんな顔になって。君のほうが辛いでしょう」

エメザレは元の自分の顔が好きではなかった。その顔は男しかいない世界の中では、ただの呪いだった。エメザレにとって、顔は重要ではなかったが、恋人であるエスラールにとっては、自分を愛する理由の一つだったと思っていた。

「違うよ。そうじゃなくて、顔なんかなくていいけど、俺は人格が好きなわけだから。顔はいいけど、好きな人がこんなに傷付けられたら、怒るだろ。普通」

「そっか」

 エスラールはエメザレを抱きしめた。エスラールはいつも温かいと思う。

この優しい温もりはいつもエメザレを救ってくれた。エスラールの匂いを嗅いでいる時、とてつもなく切なくて安心した優しい気分になれた。

太陽の光で温められたぽかぽかの毛布に顔を埋めているような気分。大きな偉大な木の下で何だか守られているような気分だ。

「エメザレ死ぬなよ。生きていて欲しい。ずっとずっと、ちゃんと生きろよ。大好きだから。俺がここから出してやるから。待ってろよ」


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