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エスラールは十五人ほどの同志を連れてお見舞いに来てくれた。たくさんの懐かしい顔ぶれは泣きたくなるほど嬉しいものだった。

エスラールは強くエメザレを抱擁した。同志たちは祝福するように拍手を送った。

エスラールには徳がある。魔法のような徳だ。彼がいると魔法のように世界が明るくなるのだ。エメザレの世界だけではない。どんなひとの世界もエスラールの笑顔は明るくしてしまう。

自毛だが昔から茶髪で猫っ毛でくせ毛だ。笑うとくっきりとした笑窪ができて、大きめな口元はエスラールの笑顔を最大限に生かしている。美男子ではないが愛嬌がある顔だ。彼の屈託のない笑顔を見るとつい、みんな心を許してしまいたくなる。

そして本当に、信じられないような純潔な魂の持ち主だった。

昔々に忘れ去った赤子のように純粋無垢な気持ちを、大人になった今ですら大切に保存してあるのだ。彼に触れていると自分も心が綺麗になれるような気がする。

その魂は全てのひとびとから愛されるために生まれて来たようだ。

軍人として有能であり、統率力の権化だった。この人ために力になりたいと思わせてしまう天才だ。天性の人たらし。

しかもなんの意図も魂胆もない。思ったことをそのまま口にして本当に実行してしまうだけ。

エスラールはエメザレの大切な恋人だった。

だが恋人だという部分を慎重に取り扱わねばならない。

大半の同期生はエスラールとエメザレの関係性を知ってはいたが、柔らかく避けていた。昔はそうでもなかったが、大人になっていく過程でなんとなく触れてはならないものとして扱われた。認めてはいるが、一線を引いているのだ。

クウェージアの国教であるエルド教では同性愛を否定している。

誰もかれもが狂信的なエルド教信者なわけではなかったが、それでもクウェージアの全体的な価値観としては、同性愛に関して目をそらすことが一般的であり、触れないということがマナーのようなものだった。

「俺はこの近くのサーテドルインって都市に住むことにしたよ。すぐに君に会いに来れる」

「僕も同じ町にしたよ。今日来たみんなもサーテドルイン」

とヴィゼルが言った。

ヴィゼルはエスラールとエメザレの共通の親友だった。

昔に比べると随分といい男になったと思う。昔はなんだか間抜けな顔をしていたが、貫禄がついて落ち着いた。でも笑うとまだ昔の面影があった。相変わらずの短髪で目が小さく鼻梁が広い。

ヴィゼルは、エメザレがエスラールと出会うよりずっとずっと前から、エスラールの親友だった。

エメザレがエスラールの恋人になった時、おそらく本当に悔しかったのだろう。ヴィゼルが泣いたことを覚えている。

けれども一番に認めてくれたのもヴィゼルだった。ヴィゼルはエスラールの判断を信じた。エスラールが言った、「エメザレは本当はとってもいい奴なんだ」という一言を信じたのだ。

エメザレを恋人にしたことで、しかも公言したことで、エメザレに対してはもちろん、絶対的な人気者であったエスラールにすら、同期生たちは一時期、侮蔑の意思を見せたが、ヴィゼルが二人を祝福すると断言したことで、一気にあの殺伐とした雰囲気が治まったのだった。

看護婦レイテが来客用のお茶とお菓子を持ってきた。

ソファに座りきれない同志たちは立ったまま菓子を頬張り、誰かがこっそり持ってきたワインをお茶のカップに入れて精一杯のささやかな祝杯をあげた。

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