5.弱肉強食
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「あれ、まだ終わってない系ですかー」

 後ろでゆるい声がした。驚いて振り向くと知らない男がいる。痩せた男だった。前髪が長くてよく目が見えない。なんだか根暗そうな卑屈っぽい印象がする。広くて薄い唇のせいだろうか。制服の左肩には前期二年を示すラインが入っていた。どうやらエスラールと同い年らしい。
 男は腕まくりをし、首に毛布を巻きつけて、水をたっぷり入れた大きな桶を二つと持ち、掃除用のブラシを脇にはさんで立っている。

「あんた、どちら様? なんでそんな変な格好してんの」

 男は持っていた桶をおろし、エスラールの顔と格好を眺め回して言った。寝間着にブーツというのは確かにおかしな格好だが、毛布を首に巻きつけている奴にあんまり言われたくない。
 男は極めてやる気のなさそうな喋り方をする。そのお陰なのか、先ほどの失望はどこかへ吹き飛んでしまった。

「お前こそ、どちら様だよ」

「俺はお掃除係のミレベンゼ。宴会が終わった後の片付けをするんだ。あ、もしかしてあんたエスラール? エメザレと同室になった奴だろ。そういえば見たことがある気がする顔だ。あんたも大変だね。こんなのと一緒の部屋になって。あー、エメザレなら心配ないよ。いつもそんなふうになるんだ。死にそうだけど死なないから大丈夫。見た目より頑丈なんだよ、そいつ」

 ミレベンゼは巻きつけていた毛布を外して無造作に床に投げると、ブラシを持ち替えて、その柄でエメザレを差した。

「掃除係? 宴会ってなんだよ。エメザレにこんなことをしたのは誰だ」



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