3.死の穴
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 誰がいつから言い出したのか、その場所はサロンと呼ばれていた。しかし実際は談話室や社交場というよりただの広間で、華やかさやらは一切ない。つまり一階のど真ん中にある、地味な開けた空間をサロンとおしゃれに呼んでいるだけである。一応、多目的広場というのが正確な名称らしいが、エスラールはそう呼ばれているところを聞いたことがなかった。

 ちなみにサロンには椅子すらないので、比較的自由に使うことができる貨物入れ用の木箱を椅子や机の代わりに使っている。それでもゲームをしたり、ケンカ試合を勝手に開催したり、食堂から適当に食料を持ってきてみんなで食べたりと、なかなか快適な娯楽空間なのは間違いなく、しかもサロンの天井には大きなランタンが一つぶら下がっているのだが、ありがたいことに夜通し点きっぱなしになっている。暇な夜を潰すのには素晴らしすぎる場所であった。

 で、エスラールはそんなサロンの端っこからエメザレの姿を眺めていた。一緒に行くよと言ったものの、エメザレに一人で行くからついてくんな的なことを言われ、冷たくあしらわれたので、こうしてストーカー気味に遠くからエメザレを見ているのだった。

 どうなることかと心配したが、まだ時間が早いこともあり、サロンに集っていたのは一号隊の中でも穏やかな連中だった。エメザレが挨拶して微笑むと、彼らは少々戸惑いながらもぎこちなく、雑談の輪の中にエメザレを入れようと努力してくれた。

 その中にはあの若干憐れな存在のラリオもいて、持ってきたらしい本のページをしきりに指差し、エメザレに向かって何かを熱く語っていた。エメザレはふんふんと頷きながら、時々笑っている。その様子を見て、エスラールはほっと胸をなでおろした。

「友よーーー!!」

 と、そんな大声がどこからともなく近付いてきたかと思うと、背中に、がしっと何者かが抱きついていきた。振り向けば、そこには鼻水と涙を垂れ流してエスラールの上着に顔をくっつけているヴィゼルの姿があった。



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