18.新鮮な死んだ子豚
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 二人はまるで敵軍の本拠地にでも乗り込むように、図書室の扉をくぐり抜けた。図書室の穏やかなる静寂の均衡が乱れる。さっきからなにやってんだ、とばかりに、ゆったりと読書を楽しんでいた奴らから睨まれたが、二人は走るのをやめなかった。

「ミレーゼンに聞こう。たぶんいる」

 エメザレは走りながら言った。
 ミレーゼンは変わらずの体勢で、まだエロ本を読んでいた。

「おい、ミレーゼン!」

 エスラールが叫ぶと、微妙に名残り惜しそうにしてエロ本から顔を上げた。

「つーか、お前、俺一応年上だぞ。もうちっと敬ってくれてもいいんじゃない」

「俺に変態を敬う趣味はない。それよりもミレーゼン、お前、さっき事件の夜にサディーレを図書室で見たって言ってたよな。どこの棚で見たんだ」

「知らねーよ。俺が来た時、ちょうどサディーレは図書室を出るところだったんだ。入り口ですれ違ったから、どこにいたのかは知らん」

「じゃ、考えて。君がもしサディーレで、誰にも見られたくない本を隠すならどの棚に隠す?」

 二人は床に座るミレーゼンを物理的にも見下しながら詰め寄った。

「なんの話してんだよ?」
「理由は後だ、早く言え」

「ったくなんなんだよ。さっきから。ゆっくりエロ本も読ませてもらえないのかよ。そうだな大衆文学じゃないな。大人気のエロ本の棚でもない。きっと誰も読みそうにないところだろう。一番人気がなさそうなのはダルテス文学の棚だな。一度も触られてない本もあるんじゃないかってくらいに人気がない。奴だったらダルテス文学の古典の棚を選ぶかな。古典ってところが偉そうであいつっぽい。それがどうかしたのか」

「助かった」

 ミレーゼンの問いには答えず、二人はダルテス文学の棚に急いだ。

「ここがダルテス文学の古典の棚だ」

 エメザレが高々と指差した。



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