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 だからエメザレはこのエルドという神が好きではなかった。

 エルド崇拝者の一人がエメザレに気付いて、疎ましそうな顔をした。その、あまりにわかりやすい嫌悪の表情にエメザレは我に返り、エルド像と崇拝者たちに向かって少しだけ微笑むと、二号寮へと歩き出した。


◆◆◆

 二号寮の空気はいつも陰鬱だ。二号寮にいた時からそう感じていたが、一号寮を見てからはますます陰鬱だと思うようになった。一号寮は南にあり、二号寮は北にある。そんな理由で二号寮は他より少し寒いのかもしれない。だが、それ以外の理由もある気がしてならなかった。この寂寞(せきばく)とした、静かで冷たく厳しい空気は、二号隊の一人一人から発せられている、不満や怒りといった、負の実体のように思えて仕方がない。

 二号寮は静かだったが、耳を澄ますと各部屋の中からかすかな笑い声や話し声が聞こえてくる。廊下に人影はなくとも、みんなまだ起きていた。

 二号隊には一号隊のように大勢で集まる習慣がない。三、四人程度の小グループがいくつもあり、グループ同士が接触することはあまりなかった。自由時間は適当なメンバーの部屋に集まって、ささやかな歓談をするのだ。

 サロンへ行く奴はめったにいない。サロンはロイヤルファミリーの領域だ。二号隊という国の真ん中に聳える王家の城だ。遊びに行くところではない。ロイヤルファミリーに、なにかしらの用がない限り、誰もサロンには立ち入らなかった。

 サロンにつくとランタンの真下で、歪(いびつ)な輪を描くようにして、二十人ほどのロイヤルファミリーが集っていた。内容は聞き取れないが、石床に座り込んで談笑している。だが、一号寮で見かけたような覇気はない。

 ランタンの灯が当たらない、中央よりずっと端のほうにシマがいた。サロンの中に一脚だけある椅子に腰掛けている。通称で玉座と呼ばれる椅子だ。いつからそこにあるのかは誰も知らない。ずっと前から二号寮のサロンに置かれていた。

 シマはまるで中央に集っているロイヤルファミリーを監視でもしているかのように、黙って中央を見ている。シマの周りにはシマに次ぐ上位の三人が立っていたが、シマとは違い、なにか話しながら笑っていた。本来ならば、エメザレはそこに立っているはずだった。

「来たのか。淫乱ちゃん」

 真っ先にエメザレに気付いたのは、中央にいたミレーゼンという奴だった。ミレーゼンはいやらしい顔で微笑んだ。



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