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 エメザレは、ここはもっとも自分に適切な居場所だと信じていた。不幸ではない。もっとも自分が自分らしく生きられる聖域なのだ。嘆くことではないのだ。

 こんな目に合って、毎日の苦痛と屈辱と蔑みを味わって、それでもガルデンを好きだと言っていられるような人間は、おそらく自分しかいないだろう。エメザレはそれをわかっていた。これは才能なのだ。どんな苦痛にでも耐えられる才能だ。苦痛を愛せる才能だ。

 この心情を、誰かに言っても、にわかには信じないだろう。理解も得られない。また誇らしげに言うことでもないだろう。

 ゆえに誰にも告白しないのだが、エメザレは愛していた。シグリオスタも、ガルデンも、二号隊も、全て愛していた。


 けれども夢を見てしまうのだ。愚かな、世間知らずの娘のような甘い夢を。
 いつか、誰か、自分を救ってくれて愛してくれて、優しく抱いてくれるひとに出会いたい。女の代わりではなくて、女性的な自分そのものを好きになってくれるひとと、ずっとずっと一緒にいたい。

 ふと、さっき蹴り倒してきたエスラールの顔が頭をよぎった。そんなことを考えてはいけない。エスラールの優しさに負けてはいけない。あの雄大な優しさに身を委ねてしまったら、二度と一人で立っていられなくなる。彼を自分の人生や価値観に巻き込んではいけない。彼は全くの違う次元に生きている。自分と価値観を共有すれば、彼の美しさは失われて、いずれ破綻してしまうだろう。安っぽい夢は一人で見ていればいいのだ。きっと高貴なるエルドは、そんな夢を見ている自分を笑うだろう。

「ユド」

 エメザレは呟いた。

「僕が助けてあげる」

 エルドの微笑みは、エメザレにとって蔑みにしか感じられなかった。エルドはけしてエメザレを愛さないだろう。同性愛者である限り、恩恵も与えないだろう。悔い改めない者を赦したりしないだろう。



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