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 よく、初めての相手は誰なのかと聞かれるのだが、本当に答えようがない。まず、なにをもって『初めて』とするのかがわからない。尻に入れられることが『初めて』とするなら、気絶するくらい痛かったことだけは覚えている。確か、十歳のときのことだ。相手は不明だ。複数で後ろから襲ってきて、エメザレに目隠しをしたので、彼らの正体は謎のままだった。

 ペニスをしゃぶるのが『初めて』ならば、もっと昔に遡らねばならない。オルガズムに達することが、とするならそれこそ曖昧で、たぶんいくら考えても正確な答えは出てこない。

 なんにせよ、自覚する前まではそれらの行為に、不快以外の感情を抱くことはほとんどなかった。気持ちが悪くて、痛くて不潔で不道徳で、嫌で嫌で仕方なかった。自分をそんな目に合わせるひとびとを強烈に憎悪して、殺意すら抱いていた。

 だが、自覚した時から、気持ちが変わった。相変わらず、嫌ではあったが、確実に嬉しいという気持ちが芽生えた。女のように扱ってくれて嬉しいという気持ちだ。それは心のほんの片隅に生まれた小さなものだったが、確かにはっきりと認識できた。好きでもない男とやっても、どこかに嬉しいという気持ちがあるのなら、それは淫売であっているだろう。だからエメザレはあえて否定せずに、それどころか、むしろ認めてきたのだ。

 不条理ではあると思う。しかし、それでもエメザレは同性愛がはびこる愛国の息子たちの世界を愛していた。エルド教が絶対的な権力を持っている、この国、クウェージアでは同性愛者はことごとく排除される。こんなふうに毎日のように狂乱に明け暮れていたら、最悪、処刑台に送られても文句は言えない。クウェージアの中で、唯一同性愛がまかり通っている場所は、愛国の息子たちが住むこの場所だけだった。

 シグリオスタのとある教師は、エメザレの身体を弄りながら呪いのように優しい言葉を耳元に押し付けて、クウェージアのことと、同性愛者たちの悲しい末路の歴史を教えてくれた。覚える気もなかったので、もう名前は忘れてしまったが、ことが終わって気が済むと、その教師はまるでエメザレを慰めるみたいな口ぶりで「君はとても幸せで恵まれたひとなんだよ」と言っていた。きっとあの教師は、エメザレの先天的な性癖を見抜いていたのだろう。

 彼の言葉を鵜呑みにして信じたわけではない。しかし、シグリオスタの外の状況がわかればわかるほど、彼の言っていることはあっているように思えてきた。男を愛してはいけない世界で生きるより、いろんな男に犯される世界の方がずっと幸せなのではないかと思った。



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