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 エメザレはこのエルドという神が好きではなかった。信仰するひとびとも好きではない。というか、彼らのほうがエメザレを嫌うのだ。エルド教は同性愛を嫌悪していた。

 エスラールの楽しげな語彙を借りていうなら、エメザレは正真正銘、絶対的、正確無比な純度百パーセントの同性愛者だった。男しかいない環境で育ったからではない。環境も経験も関係ない。先天的にそうだったのだ。

 物心がつくまえから、なんとなく女の気分で生きてきた。男女の難しい違いはわからない。それでも昔から自分が異質であることだけは理解できた。異質であるエメザレは常に孤独だったが、自分を偽ろうとも、分かち合あおうとも、理解されようともしなかった。説明も弁解もしなかった。

 シグリオスタでは、誰かの理解を得ようと、自分の心情を喚き散らすのは、弱い奴がすることだと思われていた。もし、自分の考えを誇示したいのならば、口で言う前に力を行使しなくてはならなかった。暴力でねじ伏せ勝利してから、初めて勝利者はものを言う権利を与えられるのだ。だからみんな、自分の弱さを露呈するような愚かなことはしたがらない。泣いても誰も同情などしてくれない。強くならない限り、誰も話しなんて聞いてくれない。

 エメザレは自分という存在に疑問を感じながらも、一人で黙っているしかなかった。

 女の気分で生きているらしいと、しっかり気がついたのは十二歳のときだった。唯一の友人がエメザレに教えてくれた。

 自覚したからといって、エメザレは特に悩まなかった。なぜならエメザレの周囲はすでに、エメザレを女性化して見ていたからだ。状況としてはなにも変わらなかった。
 変わったのは、心の対応だった。



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