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「俺、べつに淫売でもいいよ。誰とやってても好きだよ。嫌いになんかならないよ。エメザレの生き方の一つなんだろう。わかったよ。でも、痕、痛いだろう? 行ったって痛いのがひどくなるだけじゃんか。俺は本当に本当に本当に本当にお前のこと心配してんだぞ。嘘なんてついてない。俺の気持ち、わかれよ」

 エメザレの骨ばった細い身体から寂しさが凍みてくるような気がして、悲しくなってくる。いまだかつて、こんな気持ちでエメザレを抱きしめた奴はいるのだろうか、とふと疑問に思った。
 エメザレの柔らかい髪の毛が、ちょうどエスラールの頬に触れ、引き寄せられるようにエスラールは髪に頬をつけた。

「エスラール」

 エメザレは顔をあげた。
 鼻先がエスラールの口元に触れそうなところにある。弱く静かな月の光に照らされているエメザレの秀麗な顔立ちが、やたらと幻想的に見えた。エスラールのまだ知らない感覚が自分の意志とは無関係に、急激に盛り上がってきて、身体が乗っ取られてしまうような恐怖に駆られる。

 エメザレから離れなければ、と思ったとき、エスラールの唇に柔らかく冷たいものが触れてきた。それがエメザレの唇なのだとわかって、エスラールはもうなにも考えることができなくなった。ただ苦しいほどに心臓が締め付けられた。羞恥なのか不快感なのか、はたまた喜びなのか、ときめきなのか、大まかな印象さえ不確かだった。

「ごめんね。おやすみ」

 すぐ傍から聞こえたはずなのに、まるで遠い場所から放たれた言葉のような気がした。なにに対する謝罪なのかと、エスラールが考え始める前に、腕の中からエメザレが消え去っていることに気付いた。誰もいなくなった自分の腕の中を、不思議に思ってぼんやり見ていると、とんでもなく強大な殺気が真正面から襲ってきた。エスラールはよくわからぬままに、それでも避けようと身を屈めたが、その軌道すら読まれていた。

「ぐぎゃ!」

 エスラールの首には、エメザレの回し蹴りがお手本のように華麗に決まっていた。混迷極まる思考の中、真横に吹っ飛んだエスラールの意識は、宙を舞った状態で途切れた。




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