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「お前、仲間が死ぬんだぞ。それともロイヤルファミリーに全部話すつもりなのか」
「さあね」

 エメザレの答えに、エスラールは返す言葉が出てこなかった。
ひとの命が関わっているのだ。命というものが、どれほど貴重なのか、このクウェージアに生まれたのなら嫌というほどわかっているはずだ。エメザレだって身近に見てきただろう。大護院で死んでいった憐れで弱い孤児たちを。その死に顔を、覚えているだろう。それらを全てなかったことにされたような気がした。死んだひとびとが、かつて生きていたことを、ないがしろにされた気がした。

 もう、こいつ狂ってる。

 掻きむしられるような悔しさが膨れて、たまらずにエスラールは右手を振り上げた。

「………ぅ」

 エメザレの口の端から、小さな呻きがもれ、身を強張らせて目を閉じた。

 昨日と同じだと思った。バファリソンがしたことと同じだ。殴ったら、エメザレは二度と心を開かない。べつにひどいことをしたいわけじゃない。でもエメザレはその違いを理解できないだろう。
 エメザレを殴る奴はたくさんいるのだ。罵る奴も軽蔑する奴も強姦する奴もたくさんいるのだ。ずっとそんな奴らに囲まれながら、負けずに生きてきたのだ。きっと、きっと辛かっただろう。痛かっただろう。身体中が痛いんだろう。それでも悲しそうに笑って、一人で必死に生きている奴を殴るのか?

 エスラール。お前はそんな奴じゃないだろう?

「行くなよ」

 エスラールは衝動的にエメザレを抱きしめていた。それしかないような気がした。殴っても怒鳴っても無意味だ。エメザレには効かない。苦しみに慣れているのだ。慣れていないのは労わりだ。生きてきた道を認めることだ。



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