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 手には毛布を持っている。昨日エメザレを包んできた二号寮の毛布だ。どこに行こうとしているのかはバカでも考え付く。エメザレは振り返ったが、暗くて表情がよく見えなかった。

「トイレとか」
「毛布持ってトイレかよ」
「毛布を返しに行きたいんだよ。それと寝間着を取りに。それくらい、いいでしょう」

 少しくらいたじろいでもいいようなものだが、エメザレはしばらく間をおいてから落ち着いた声で答えた。開き直りに見えなくもない。
 毛布を返して寝間着を取りに行くというのは、たぶん嘘ではないだろう。ただ、用がそれだけとは思えない。それならば、さっき行けばよかったのだ。こっそり真夜中に行く必要はない。

 今度ばかりはエスラールも怒りたくなった。宴会に行くということが、どういう意味を持つのか、エメザレはもうわかっているのだ。それでも行こうとするエメザレの気持ちが全く理解できない。

「毛布を返して寝間着を取りに行きたいなら、俺が行ってきてやるよ」

 エスラールはベッドから起き上がると、エメザレに近付き、毛布を取り上げようとした。が、何気にエメザレの力が強く、逆に手を払われた。

「いいよ。僕、一人で行く」

 エメザレがドアノブに手をかけたので、エスラールはドアを覆うようにして、急いでエメザレの前に立ちはだかり、ドアノブにかけられた手を掴んだ。

「じゃあ、二人で行こう。それですぐ帰ってこよう」

「もういいよ。エスラール。大丈夫、口裏はあわせるから。さっきは鬱陶しいとか言ってごめんね。嫌な態度、とってごめんね。もっと早く気付けばよかったのに、僕は鈍いな。君、命令されて全部やってたんだね」

 近くで見るエメザレは悲しそうに微笑んでいた。
 その顔でエスラールは気がついた。エメザレはエスラールの告げ口に怒っていたのではなかった。傷付いて失望してがっかりしていたのだ。本人にいっても否定するだろうし、自覚もないのかもしれないが、エスラールにはそう見えた。

「おい、それは違うぞ。それは絶対に違う。全然違う」

 エスラールは慌てた。しかし、しっかりとした説明の文句が思いつかない。子供のように何度も首を横に振って、掴んだエメザレの手を強く握った。



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