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 前期総隊長といっても歳は十九でエスラールと三つしか変わらない。顔全体は刃物のように鋭く、特に人工的に作られたかのような細すぎる鼻筋が、強く冷徹な印象で、近寄りがたい雰囲気を作り出している。襟足の長めな黒髪を全て後ろに流していて、その髪型がまた神経質そうに見えるのだ。だがエスラールは、サイシャーンが見た目に似合わず面倒見のいい穏やかなひとであることを知っていた。

「いいえ。走るの、飽き飽きしてたんで助かりました」

 とエスラールは笑って見せた。エスラールの笑顔には徳がある。魔法のような徳だ。彼はけして美男子というやつではない。美しいとか整っているとか、そういう部類ではないが、不細工なのかと言われると、そうでもない。つまり取り留めのない顔立ちであるのだが、凡庸と呼ぶには愛嬌がありすぎる。普段から少し垂れ気味の目元は、笑うと絵に描いたような弧を作り、頬にはくっきりとした笑窪ができた。大きめの口元も彼の表情を最大限に生かしている。髪は茶色に近く癖毛であり、いくらとかしても外はねが直らない。それが適当に放置されて、後ろ髪が肩の辺りまで伸びている。体格は痩せ型でひょろ長く、まだ横幅の成長が縦に追いついていなかったが、いずれはもう少々の筋肉がついて男性らしさが増しそうな感じである。

「そうか。走るのは飽きたか。私も訓練は飽きた」

 サイシャーンはエスラールにつられるようして少し笑った。その笑顔は微妙に不気味であったりしたが、悪意があるわけではない。顔面の構造上、仕方がないのだ。

「今日はなにかの会議ですか?」

 総隊長といえども偉そうなのは名ばかりで、実際はただの一兵士である。本来であるならば、サイシャーンも訓練に参加していなければならない。

 サイシャーンの服装をよく見れば正装をしていた。普段の制服に三本タイをつけているだけなのだが、それが正装ということになっている。エスラールのような一般兵は、三本タイなどめったに使う機会に恵まれない。そういえば俺は、三本タイをどこにしまったかな、とエスラールは唐突に気になった。

「会議というか、呼び出しだよ。軍事教育ガルデン総監直々にお呼び出しをくらったんだ。そして一方的に面倒ごとを押し付けられてきた」

 サイシャーンは深くため息をついた。軍事教育ガルデン総監というのはガルデンで一番お偉い方である。早々お目にかかることもなく、行事の挨拶かなにかで演説を見たかもしれないが、顔は浮かんでこなかった。


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