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 結局『暴虐ロード』は誰一人としてゴールすることなく、夜も更けたのでお開きということになった。実はこの『暴虐ロード』、あまりに長いためにゴールをするのに三日かかるのだ。そのあたりも結構暴虐的である。
 エメザレはヴィゼルたちが帰ると、すぐに寝てしまった。ヴィゼルたちがいなくなったからといって、嫌な態度に戻ったりしなかった。ごく普通に、眠いからと言って、とっとと寝てしまったのだ。

 部屋に一人になったエスラールは、ヴィゼルから受け取った制服のボタンを縫い付け始めた。昨日のこともあって疲れていたし、少し眠くもあったのだが、明日もつんつるてんの制服を着るのは遠慮したい。肩幅が狭くて動きにくいのだ。

 小さいランタンを枕元に置き、裁縫をしていると、背を向けて寝ていたエメザレが寝返りを打って、こちらに顔を向けた。ぼんやりと照らされたエメザレの寝顔はつい見入ってしまう美しさだった。もし外の世界で生きていたら、美麗な容姿は役に立ったかもしれない。しかしこの愛国の息子たちの世界では呪い以外のなんでもなかっただろう。

 ところで、なんとなく裁縫を始めたが、この制服はエメザレのものである。エスラールがボタンを引きちぎったわけでもない。よく考えてみれば、エメザレが自分で縫うべきではないだろうか。だが、気付いたときには既に三つ目を付け終わっていた。今更やめるのも気持ちが悪い。微妙に損した気分になりながら、四つ目のボタンを取った。

「俺って、なんなんだろう……」

 安からに眠るエメザレに向かって聞いてみたが、静かな寝息が聞こえただけで、もちろん答えは帰ってこなかった。


◆◆◆

 ひどく浅い夢の世界に、ベッドの軋む音が響いた。それはほんの微かな音だったが、知らぬ間にエスラールは神経を研ぎ澄ませていたらしい。頭が起きるよりも先に身体が起きた。
 心細い月の光が部屋をぼんやり照らしている。深い夜は薄寒く肌にしみて、かすんだ意識をはっきりとさせた。

「どこに行くんだよ」

 エスラールは出て行こうとしているエメザレに言った。


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