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 エメザレが笑ったことで場はいっきに和やかになった。もしかしたら、彼らはエメザレに軽くあしらわれると思っていたのかもしれない。エメザレの友好的な態度を見て安心したのだろう。

「ねえ、セカテを持ってきたんだけど、エメザレも一緒に遊ばない? 『暴虐ロード』っていうんだ。これすごい楽しいよ」

 ラリオは持っていた『暴虐ロードを』広げて見せた。

 セカテというのは絵双六(えすごろく)の一種で古くからあるボードゲームだ。紙とペンと僅かな絵心さえあれば誰でも簡単に作れるので、誰しも一度くらいはセカテ作りに挑戦するものだった。

 彼らが持ってきたセカテはガルデン史上最強と思われる超大作だった。エスラールとヴィゼルが四ヶ月かけて作ったものなのだが、『暴虐ロード』という題名がついている。
 小さな紙を縫い合わせて作った三メートル強の巨大な紙に、長い長い一本道が右往左往しながら書かれていて、その道は約千のマス目に分割され、全てのマス目に暴虐的な指令が書いてある。例えば『百回休み』とか『一万回腕立て伏せ』とか『バファリソンにケンカを売る』とか『今はいてるパンツをかぶる』とかであり、その指令のほとんどは達成されることはなかったが、最初にゴールするよりも途中の指令を一番多く達成できた者が偉いという、なんとなくできてしまったルールのために、むちゃな指令を達成しようとして負傷する者が後を絶たなかった。まさに『暴虐ロード』の名にふさわしいセカテなのであった。

「なんだか面白そうだね。うん、僕も仲間にいれてよ」

 エメザレはマス目の命令を読んで、くすくすと笑った。

 少々意外だったのだが、エメザレはノリがよかった。冗談も言うし、よく笑う。ヴィゼルも四人もエメザレと面と向かって話すのは、ほぼ初めてのはずだが、すっかり溶け込んでいるように見えた。

 だがエスラールの心中は穏やかでなかった。エメザレはおそらく怒っているだろう。密告まがいのことをされたのだから仕方がないが、怒り方が不気味だ。血の気が多くて必要以上に怒る奴なら結構いるのだが、こんなふうに怒っていることを隠しながら怒る奴はエスラールの周囲にはいなかった。なにしろ、まるでずっと前から友達だったかのように錯覚してしまうほど、自然にエメザレはエスラールにも話しかけてくるのだ。戸惑うことすら忘れてしまう。
 変に突っ込んでこの関係を壊してしまうのも、なんだか勿体ないような気がしたし、なにより楽しく遊んでいるこの場の空気を破壊するのは申し訳がない。エスラールは適当に流れに身を任せることにした。



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