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「エスラールーーー!」

 ノックもなく突然扉が開いた。扉の方を見ると、ヴィゼルとラリオとその他三人がぞろぞろと部屋に入ってきていた。サイシャーンとは違い、ノックはしない主義らしい。

 彼らはサイシャーンの姿を見て、驚いたような顔をした。サイシャーンは自由時間だからといって冗談を言ったり、はしゃいだりするようなキャラではない。いや、自室では密かに不気味に微笑んでいるのかもしれないが、ともかく用もなく誰かの部屋を訪れるような人物ではなかった。彼らは部屋に渦巻く異様な緊張感を感じ取ったらしく、姿勢を正した。

「お取り込み中でしたか」

 ヴィゼルがよそ行きの声で控えめに言った。

「いや、私の用事はもう終ったから、あとはみんなで楽しむといい」
「総隊長も一緒にどうですか?」

 そんなラリオを慮(おもんばか)って、サイシャーンは優しく見つめたのだろうが、残念ながらにらめつけたようにしか見えなかった。元々憐れな顔をさらに憐れにさせて、ラリオはわなないた

「私は遠慮するよ。それよりエメザレを頼んだそ。さらば」

 サイシャーンはエスラールの顔を見て小さく頷くと、いつぞやのように、思わず陶然(とうぜん)とするような、堂々たる動作で背を向け、部屋から出て行ってしまった。
 まあ、一緒に遊ぶと言われても、どんな顔をして遊べばいいやら反応に困るので、よかったといえばよかったのだが。
 しかし、サイシャーンは去ったが、サイシャーンのオーラの余韻はなかなか収まらなかった。気まずい静寂が広がったままだ。

「ボタン持ってきたよ。サロン一周して探したけど、四つしか見つからなかった」

 意を決したようにヴィゼルが口を開いた。ポケットからボタンを取ると、エスラールに差し出した。
 誰もサイシャーンとなにを話していたのかと聞く者はいない。ヴィゼルが連れてきたのは四人とも、比較的おとなしく、平和主義者でのんびりしていた。ヴィゼルなりに考えてこの四人を連れてきたのだろう。この気の利きっぷり、本当に時々結婚したい衝動に駆られるほどだ。

「おお、友よ。ありがとう!」

 ボタンを受け取り、ヴィゼルと愛の抱擁を交わそうとした。が、その間にエメザレが入ってきた。

「君がボタンを拾ってきてくれたの? ヴィゼルってとっても親切だね。ありがとう」

 エメザレが笑ってヴィゼルにお礼を言った。ヴィゼルは不思議に思ったようだ。思わず愛しさで撫で回したくなるようなアホ面で、ヴィゼルはエメザレを見た。先ほどのエメザレの冷たい態度を考えれば、そんな顔もしたくなるだろう。だが悪い気はしないはずだ。

「え、ああ、どういたしまして」

 頬を赤らめ、恥ずかしそうに頭をかいて、ヴィゼルはもぞもぞと言った。



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