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「君はどうにもならない。どうにかなるのは私と二号隊だ。あと、ついでに総監だな」
 サイシャーンが答えると、エメザレは小首をかしげて、少し考えるようにしてから、ゆっくりと頷いた。

「総隊長にも、二号隊にも迷惑はかけません。約束します」
「感謝する」

 一言、ぽつりと呟いてサイシャーンは話し始めた。朝、エスラールに言ったことと同じことを、なにも隠さずに全て伝えた。エメザレは相づちだけ打って、質問もしなければ口を挟みもしなかった。

「そうですか。わかりました」

 話が終わっても、意外にもエメザレの顔色は少しも変わらなかった。エスラールは、ユドがエメザレのために殺人を犯した、ということにもっと感情的になるのではないかと思っていたのだ。だが、エメザレはかえって不自然なほど完全に聞き流した。

「先輩。ひとつ、聞いてもいいですか。どうして僕に事件のことを教えたんです? 確かに僕は教えてもらえて助かりました。でも先輩の立場からすると、言わないほうがよかったんじゃないですか」

「誠意だよ。私なりの最大限の誠意だ。君は一号隊の仲間だ。私の仲間だ。その気持ちを行動で示してみた。表情で伝えるのは苦手なんでな」

「仲間、ですか。二号隊では禁句でしたけどね。シグリオスタでもそうでしたし。先輩は変わりましたね。まるで別人みたいです。あんなに強かったのに」

 エメザレはサイシャーンに微笑みかけてはいたが、あまりいい意味を持った微笑には見えなかった。嫌味っぽいわけでも、蔑んでいるわけでもなく、ゆえに悪い印象はしないのだが、穏やかに諦めているような、物悲しい気分にさせる微笑み方だ。

「許してくれ」

 囁くような声でサイシャーンが唐突に言った。なんの謝罪なのかはわからない。しかし、あまりに感情のこもった声だったので、エスラールはそっちのほうが気になった。
 エメザレはなにかを言おうとして口を開いたが、気が変わったのか一度閉じ、そしてまた口を開きかけたとき、なにやらやかましい複数に足音が近付いてきて、部屋の前で止まった。



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