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「もう、二号寮、行くなよ」

「またその話か。しつこいな。朝言ったでしょう。僕のことは放っておいてよ。お願いだからやめてよ」

 エメザレは感情が溢れそうになっているのを、隠すようにエスラールに背を向けた。

「エメザレ。ちゃんと話、聞けよ。逃げるのはよくない」

「なんだよ。鬱陶しいんだよ」

 エメザレは声を荒げた。
 意地を張っているだけだ。負けず嫌いの子供みたいに、あの野良猫みたいに、怯えて怒りながら、それでも自分は強いんだと叫ぶように、逆毛を立てているだけだ。

 あのとき、エスラールは猫を撫でたいだけだった。傷つける気なんて少しもなかった。野良猫を虐待する奴はいる。汚いといって嫌がる奴もいる。でも優しく抱きしめたいと思う奴だっているのだ。あの猫は、自分以外の全てを敵だと思っていただろう。だが、そうではない。そうでないことをエスラールは知っている。

「君のこと、放っておけない奴がたくさんいるんだよ」

 言うべきなのだろうか。言ってしまってもいいのだろうか。エスラールは困惑しながらも言った。

「なんの話?」

 エメザレは振り向いた。喜んではいない。不快そうだった。

「二号隊にいるんだ。君のことを助けたいと思ってる奴らがいるんだよ。エメザレは嫌われてない。自分でそう思い込んでるだけだ。エメザレは一人ぼっちじゃないよ。みんな心配してるのに、気付いてないんだ」

 全てぶちまけてしまいたいのを我慢して、エスラールは曖昧な言葉を並べた。

「そんな作り話して、なんのつもり? だいたい、エスラールは二号隊の事情なんて知らないだろ」

「いや、作り話ではない」

 部屋の外から冷静な声がした。サイシャーンの声だった。




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