10/10 「もう、二号寮、行くなよ」 「またその話か。しつこいな。朝言ったでしょう。僕のことは放っておいてよ。お願いだからやめてよ」 エメザレは感情が溢れそうになっているのを、隠すようにエスラールに背を向けた。 「エメザレ。ちゃんと話、聞けよ。逃げるのはよくない」 「なんだよ。鬱陶しいんだよ」 エメザレは声を荒げた。 意地を張っているだけだ。負けず嫌いの子供みたいに、あの野良猫みたいに、怯えて怒りながら、それでも自分は強いんだと叫ぶように、逆毛を立てているだけだ。 あのとき、エスラールは猫を撫でたいだけだった。傷つける気なんて少しもなかった。野良猫を虐待する奴はいる。汚いといって嫌がる奴もいる。でも優しく抱きしめたいと思う奴だっているのだ。あの猫は、自分以外の全てを敵だと思っていただろう。だが、そうではない。そうでないことをエスラールは知っている。 「君のこと、放っておけない奴がたくさんいるんだよ」 言うべきなのだろうか。言ってしまってもいいのだろうか。エスラールは困惑しながらも言った。 「なんの話?」 エメザレは振り向いた。喜んではいない。不快そうだった。 「二号隊にいるんだ。君のことを助けたいと思ってる奴らがいるんだよ。エメザレは嫌われてない。自分でそう思い込んでるだけだ。エメザレは一人ぼっちじゃないよ。みんな心配してるのに、気付いてないんだ」 全てぶちまけてしまいたいのを我慢して、エスラールは曖昧な言葉を並べた。 「そんな作り話して、なんのつもり? だいたい、エスラールは二号隊の事情なんて知らないだろ」 「いや、作り話ではない」 部屋の外から冷静な声がした。サイシャーンの声だった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |