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「なに? 猫って。それより、きっと今頃、みんなで僕たちのこと噂してるよ。やめなよ。エスラールの立場が悪くなるんだよ? わかってんの。いくらエスラールが人気者でも、僕はそれ以上の嫌われ者なんだよ。何度も言うけどさ、僕と一緒にいると誤解されるよ」

「そういえば、二人のときは話してくれるけど、みんなの前ではそっけない態度とるよな。エメザレって、もしかして俺のこと心配してんの?」

 エスラールが問うと、エメザレはきまりが悪そうな顔をして目を逸らした。

「心配っていうか……。まあそうだね。心配してるよ。だからさ、僕も一応、悪いと思ってるんだよ。何したってわけでもないのに、僕なんかと同室になってさ。それで僕とできてるとか言われて、みんなから軽蔑されでもしたら、普通、いい気分はしないでしょ。だからやめてよ、そういう気遣い。僕と変な噂、たてられてもいいの?」

「うん。いいよ」
「え?」

「いいよ。別に。だって、できてないじゃん。俺たち。みんなちゃんとわかってくれるよ。最初はそう言われてもさ、わかってくれるよ。だってヴィゼルとだって、『お前ら本当はできてんだろう』ってよく言われるよ。俺は『そうだよ。ヴィゼルのこと大好きだよ』って答えてるけど、みんなできてないの知ってるし。少なくとも、俺は誤解されても嫌じゃない。そんなこと気にすんなよ」

 エスラールがにっこり笑って言うと、エメザレはなんとも複雑な、悲傷と歓喜を押し殺したような表情を浮かべて、しばらくなにも言わなかった。

「エスラール。君って、本当に本当に、ばかみたいにポジティブになんだね。君みたいな人に初めて会ったよ。出会えてよかったような、出会わないほうがよかったような、変な気分だ。すごく変な気分。逃げ出したい気がするよ。どうしてだろう」

 エメザレは小さな声で、自分自身に語りかけるように静かに言った。エスラールにはエメザレの言いたいことがよくわからなかったが、それでもエメザレの心が揺れていることはわかった。

「行くなよ」

 自分でも不思議に思うほど唐突だった。口から言葉が勝手に出てきた。



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