7/10 「いやいや、うへへ、照れるじゃんか」 「あれ、あの台詞。あれよかったな」 「あ、わかった! あれだろ?」 ヴィゼルはひらめいたように言うと、エスラールの頭を引き寄せ、なんとなくぞっとするような優しい手つきで頭を撫でた。 「……早く、脱いで」 「そこを抜粋すんな!」 エスラールはヴィゼルの頭をぶっ叩いた。 「おい、エメザレ。エスラールに一言お礼くらい言いなよ」 ヴィゼルが、少し遠くに歩いていたエメザレを見つけて言った。エメザレはそれに気がついて一瞬こちらを見たが、足も止めずに冷めた一瞥をくれただけだった。助けたときは確かにありがとうと言ったのに、なぜ今はそんな目をしたのか、若干疑問に思ったが、みんながいる前で改めてお礼を言うのが恥かしい、という気持ちなら、わからなくはない。エスラールは気にならなかった。 「なんだよ、あの態度。エスラールがせっかく助けてくれたっていうのに」 だがヴィゼルが口を尖らせた。 「うわー、嫌な奴」 「デイシャールに負けず劣らず根性が悪いな」 遠くのエメザレには聞こえないだろうが、そんな言葉があたりから湧いて出る。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |