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が、答えはない。しかしもう一度発言するのは逆効果だ。さらに機嫌が悪くなる。デイシャールの気が向くまで待っているのが一番の得策だった。

「エスラール、発言を許可する」

 意地の悪いしばらくの沈黙の後、デイシャールはやっと言った。

「僕の制服と、エメザレの制服を交換する許可を頂けないでしょうか」
「そんな配慮は必要ない」
「ですが――」
「口答えをするな」

 後ろにいると思っていたデイシャールが、自分のすぐ脇に佇んでいたのでエスラールはぎょっとした。さすがに幾多の戦闘経験をつんでいるだけのことはある。気配がまったくしなかった。眼球を横に向けると、デイシャールが吊上がった目元をさらに引き上げて、激しく怒かっている。

「お言葉ですが、僕の任務に関わることですので引けません。許可をください」

 面倒な展開になるのを承知で、エスラールは食い下がった。

「任務?」

 デイシャールの顔色が変わった。特に深い意味を込めたわけではなかったのだが、デイシャールは変に深読みをしたらしい。サイシャーンに告げ口をする、とでも解釈したのだろう。

 デイシャールが殺人事件について、どこまで知っているのかはわからない。隠蔽体質のガルデンのことだ。全貌は知らないだろうが、それでもサイシャーンが、殺人事件の“なにか”で特権を与えられたことは知っているはずだ。そしてエメザレを一号隊に同化させる件に関しても、協力命令くらいは出ていたのかもしれない。そのあたりの事情は謎だが、とりあえず助かったようだ。

「正当性はこちらにある」

 にわかに冷静を欠いた声色だった。

「はい。その通りです」
「わかった。早く交換しろ」

 デイシャールは苦い顔で促した。



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