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「ミレベンゼの話を聞いた感じでは、シマ先輩はロイヤルファミリーみたいです。エメザレに『もう来たくないなら来なくていい』って言ってたらしいので。シマ先輩がどうかしたんですか? てゆーか面識があるんですか?」

「大護院時代に色々とな。私が行くと、事態がもっとややこしくなる可能性がある。おそらくシマは私を憎んでいるだろう。顔も見たくないと思っているはずだ。下手すると二号隊全体と争うことにもなりかねない。それほど、私とシマは深刻な間柄なんだ……それはまずいな。総監の意に反することになる」

「え、総隊長ってエメザレやシマ先輩と同じ大護院出身なんですか?」

「そうだよ。シグリオスタ大護院だ」

 それは結構意外だった。なぜならエスラールの知る限りでは、同じ大護院の出身者は同じ部隊に振り分けられていたからだ。
 エスラールはカイドノッテ大護院の出身だが、同じカイドノッテ出身者は全員一号隊に配属された。もし、同じ大護院の出身者が別々の部隊に振り分けられていたのなら、一号隊と二号隊の交流は頻繁にあっただろうし、ないということは、きっと二号隊も同じ大護院の出身者でまとめられているからだろうと思っていたのだ。

「あの……、噂に聞いたんですが、シマ先輩のあの顔ってエメザレがやったんですか? シマ先輩に強姦されかけて、エメザレがキレたって」

 エスラールがきくとサイシャーンは顔をしかめて、視線をエスラールに戻した。

「それは知らない。その一件があったのは、エメザレが十二歳でシマが十四歳のときのことだ。私は十五で、すでにシグリオスタ大護院を卒業してガルデンに来ていたんだよ。十五になったシマがガルデンに来たとき、顔があんなふうになっていたから驚いた。
私もエメザレがやったと聞いたが、本当かどうかはわからない。最初に聞いたときは信じなかったよ。なにせシマは小さいときから強くて、よく年下に暴力を振るっていたが、エメザレは顔が可愛いという以外に突出した能力はなかったからね。どちらかというと地味で大人しい、目立たない存在だった。今ではどうやら君をぶん投げるほど強いみたいだが。そのエメザレがシマに傷を負わせるなんて、とても信じられなかった。
ただ、強姦されかけて怒った、という理由は違うだろうとは思う」

「どういうことですか?」

「いつからなのかは知らないが、エメザレはシマのグループに性的ないじめを受けていた。強姦されかけたどころか、ずっと強姦されていたんだ」

「ずっと? 誰もとめなかったんですか?」

「とめないよ。とめるってことは、あそこでは身代わりになると言ってるようなものだったからな。弱い奴は犠牲になるのが宿命だったんだよ。皆、それが普通だと思っている。二号隊では今でもそれが常識なんだろう。もし、エメザレがシマの顔をああしたのだとしたら、エメザレは抵抗し復讐したんだよ。おそらく。だが、本当のところは本人に聞くしかないだろう」

「なんだか聞きづらいですよ。ますます険悪な雰囲気になりそうですし」

 エスラールはエメザレの冷たい態度を思い出して、ため息を吐いた。
 エメザレは先にどこかへ行ってしまうし、とくに部屋の外では避けられているような気がする。友達がほしいとか言っておきながら、友達になろうとすると、拒絶されるし、絶対助けが必要なはずなのに、助けようとすると、放っておいてと突き放される。ついでにインポとか言われるし。いったいあいつは何様なんだ、と思いつつも、なぜか放っておけず、嫌いにもなれない自分にいらいらしてくる。
 一瞬だけ見せたあのからっぽの表情が頭に浮かんできて、エメザレを抱きしめたときの身体の冷たさが蘇り、エスラールは身震いした。



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