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「おそらく死刑だろうな。軍事教育所内での殺人の前例は何件かあるが、加害者は全て死刑に処されている。見せしめのためだ。なけなしの国費で育てた兵に殺し合われては、たまったもんじゃないからな」

「でも、冤罪かもしれないって総監もわかってるんですよね。死刑なんて、そんなん変です。それでいいんですか」

 ユドとは一度も話したことはない。顔すらも知らない。だが、それでもガルデンという建物の中で一緒に生きてきた。例え落ちこぼれでも、大きな括りでは、過酷な大護院生活を乗り越えてきた強者の一人だ。ここまで頑張って生き残ったのだ。冤罪で死刑になるなどばかばかしい。それこそ生まれてきた意味がわからない。

「クウェージアでは、自白が有罪のなによりの決め手になる。本人が認めている以上、我々の力ではどうしようもない。総監は反王家勢力を潰すつもりはあっても、ユドを救うつもりはないだろう。ユドも死ぬ覚悟があったから自分がやったと言ったんだ。ユドは自分の意志で死刑になるだけだ。君が心を痛める必要はない」

 サイシャーンもエスラールの気持ちはわかっているだろう。
 ユドが否認をしない限り、死刑は避けられないが、ユドは自分の意志でサディーレを殺害したことにしたのだ。本人に助かるつもりがないのだから、助けることなどできるわけがない。

「……はい」

 エスラールは諦めて小さく笑った。

「とにかくだ。これ以上、話がややこしくなる前にエメザレをとめてほしい。本来であれば君たちに友人関係を築いてほしかったのだが、それはもう諦めていい。どんな手段を使ってもいい。縛り付けてでも、なんでもいいからエメザレをとめてくれ」

「とめるのはとめます。でも僕は、エメザレと友達になるの、諦めません。仲が悪くなったところで同室なのは変わらないんでしょうし、目の前にあんなのがいたら、僕は放っておけないんで」

「ありがとうエスラール。頼りにしているよ」

 気のせいといわれればそれまでの程度だが、サイシャーンの顔がこころもちほころんだ。

「もちろん、私も放っておきはしない。最悪、私がロイヤルファミリーと話をつける。できるだけ穏便に済ませるつもりだが――しかし、ロイヤルファミリーにはシマがいるんだろう? いや、シマは確実にロイヤルファミリーだろうな。成績順ならかなり上位にいるはずだから」

 が、微かなほころびはあっという間に消え失せ、今度は沈うつな表情になった。



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