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 今まで、自由時間の行動に関しては、それこそ殺人事件でも起きない限り、けんかだろうが、リンチだろうが、強姦だろうが、教官側からはなんの干渉も受けることはなかった。愛国の息子たちを過保護にしてやったところで、どの道、戦場の前線に行くことになるのだ。そこではけんかやリンチ以上に過酷な現実が待っている。隊内でのいざこざを対処するのは総隊長の役割であり、それも自主的な判断にゆだねられていた。

 良し悪しはどうあれ、干渉されない時間というのは非常に大切な存在であることには変わりない。唐突に教官側から理由も知らされずに宴会禁止の圧力がかかれば、主戦力であるロイヤルファミリーの士気は確実に下がる。かといって反王家勢力の存在を知らせてしまうと、理解は得られるだろうが、今度はロイヤルファミリーが反王家勢力探しを始めて大事になるはずだ。

 それに反王家勢力の出現で混乱するのはロイヤルファミリーだけではない。連続殺人、しかも犯人が複数いるかもしれないとなれば、二号隊全体で疑心暗鬼に陥り、仲間を信用できなくなる。そのうえ、前期二年はブリンジベーレ遠征が初戦だ。経験値がないぶん、余計にチームワークと団結力に頼るしかない。そこで仲間が信用できないとなると致命的だ。もちろん、初戦とはいえ、前期二年はたっぷり戦闘訓練を受けているので、精神面が原因であっさりくたばるとは思わないが、可能性が全くないわけではない。だが万一のことがあっては総監が困るのだ。

 愛国の息子たちの教育費は国庫から出されている。クウェージアはただえさえド貧乏だ。国家規模での傭兵家業が外貨獲得手段の大半を担っている状況下で、せっかく育てあげた兵にすぐ死なれると損失が大きくなる。ゆえに愛国の息子たちを死なせない配慮をする必要があり、それはもっぱら総監の仕事であった。戦いで多くの死傷者が出ると、総監は責任を取らねばならない。万一でもブリンジベーレ遠征で大敗すれば、総監の首は確実に吹っ飛ぶことになる。総監としては、反王家勢力の存在をなんとしても隠しておきたいところだ。

 しかし宴会をやめさせなければ、また殺人が起こる可能性があるのだ。それも絶対に阻止しなくてはならない。

 で、その唯一の解決策が、事件の詳細を語らないまま、エメザレを一号隊に移すことだった、ということだ。幸い反王家勢力の目的は宴会の禁止ではなく、エメザレを犠牲者から外すことにある。だが、これではとりあえずの混乱を回避しただけで、根本的な解決になっていない。

「しかし、反王家勢力の目的はなんなんですか。エメザレを犠牲者から外すことが最終目的ではないでしょうし。反王家勢力というくらいだから、ロイヤルファミリーの殲滅とかそのへんでしょうか。となると、早くなんとかしないと、二号隊はまずいことになるんじゃ……」

 なにしろ、その反王家勢力は目的のために殺人すらやってのけるのだ。子供のけんかとはわけが違う。宴会でさえ可愛く感じるほどだ。ロイヤルファミリーが今までなにをしてきたのかは知らないが、少なくとも宴会を主催しているのは彼らだ。そんなロイヤルファミリーが二号隊内で称賛されているとは思えない。



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