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「で、なぜそんなにしなびているんだ。なんだか一晩で二十近く老け込んだように見えるが」

 と言われたので、エスラールはびっくりして自分の顔に片手を当てた。手のひらに触れる自分の顔は確かにすべすべではない。昨日の寝不足のせいか、なんだかいつもより荒れているような気がする。お肌の調子を気にするような乙女ではないが、ストレスのことを思うと切なくなってくる。

「え、ええ、まぁ、自分的に色々あったというか、気になることがあってですね、よく眠れませんでした」

「色々とは?」

「ところで食堂に行かなくていいんでしょうか」

 見渡せば洗面所にはサイシャーンとエスラール以外、誰もいなくなっていた。下手をすればもう朝食の時間が始まっているかもしれない。エスラールはいまだ遅刻したことはないが、食べ損ねた朝食を気遣ってくれるほどガルデンは優しくないだろう。食べ損ねたら最後、そのまま訓練に直行としか考えられない。
 それはどうにか回避したいものである。が、

「廊下で破廉恥な発言をした罪で本日の朝食は抜きだ」

 サイシャーンは残酷な知らせを涼しい顔でさらりと告げ、歯磨きを続ける。

「うえぇ! そ、そんなぁ……」

 本当にいいことがない。エスラールはがっくりと肩を落とした。
 洗面の時間帯が遅かったにも関わらず、サイシャーンが急がなかったのはこういうことだったらしい。元々エメザレの様子を聞くつもりだったのかもしれない。

「って総隊長も食べないつもりですか。総隊長が不在って色々まずいんじゃないですか?」

「副隊長には私のいないときは、代わりに指揮を取るようにと言ってある。彼は私より、しっかりちゃっかりしているから大丈夫だろう。総監からも昨日、臨時の特権をふんだくってきた。今の私は下っ端の教官よりも権威があるのだ。君から朝食を奪うことも軽々とできるのさ。ははははは」

 サイシャーンはおそらく笑ったが、その形状に顔の筋肉が慣れていないのだろう。まるで顔筋が元に戻ろうと抵抗でもしているかのように、色々な部分がぴくぴくと痙攣して、もう引き付けを起こしているようにしか見えない。その形相は子供なら小便をちびるほどのおぞましさだ。もはや妖気すら漂っている。

「ははははは……」

 なんかあんまり、このひとに権限を与えちゃ駄目な気がする。と思いながらエスラールもつられて引きつった顔で笑った。
 それにしても、エメザレを一号隊の仲間に入れるためだけに、総監がサイシャーンに特権を与えるというのはどもう解せない。エメザレは確かにある意味で問題児ではあるが、総監にとっては一隊士でしかないはずだ。なんだか妙だ。

「それよりエメザレのことを聞かせてくれ。なにかあったのか?」

 サイシャーンは口をゆすぎながら言った。



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