6/8 場の空気は一瞬で固まった。 エスラールは下着一丁、しかもエメザレは全裸だ。そんな二人が同じベッドの上にいれば、勘ぐりたくもなるだろう。いや、相手がエメザレでなければ、特にどうという状況でもないのだが、エメザレなのがまずい。潔癖なヴィゼルはショックで死にかねない。 「うげっ!」 エスラールは慌ててエメザレのベッドの上から飛びのいた。 「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」 が、もう遅かった。ヴィゼルは断末魔のような叫び声をガルデン中に響かせ、煙が出そうなほど顔を真っ赤にして、後ろにぶっ倒れた。 慌しくひとの行きかう朝の廊下で、大の字にひっくり返ったヴィゼルは急いでいる輩に次々とまたがれていく。どう考えても激しく邪魔だが、それでも踏まれないのが奇跡である。 「ヴィゼルよ! 友よ! 大丈夫か! こんなところで死ぬな、死ぬんじゃない、死なないでくれ! ここで死んだら生まれてきた意味がわからんぞ!」 エスラールは下着姿のまま、瀕死のヴィゼルに駆け寄ると抱き起こし、容赦のない激しさで揺さぶった。 「……エ、スラー……ル。僕はもう駄目だ……。い、いったい、どうなっているのだ。君はもしや、昨晩エメザレに童貞を奉納してしまったのか……」 ヴィゼルは首をぐわんぐわんと揺らしながら、死ぬ間際の兵士のようにエスラールに片手を差し出してきた。 「安心しろ、ヴィゼル! 俺の童貞はなんかちょっと微妙に危うかったりもしたが、確かにまだ無事だ!」 差し出された手をしっかりと握り締め、エスラールは涙を滲ませて叫ぶ。 「危うかったとか、なんか怪しいんだが……」 「俺は股間的な意味で突っ込んでもいないし、突っ込まれていもいない! あくまで股間的な意味でだが。これを童貞と言わずしてなんと言う! そうとも、俺は声高らかに言える。俺は正真正銘、絶対的、正確無比な純度百パーセントの童貞であると!」 「……本当か。本当に無事なのだね。よかった……。これで安心して死ねる」 ヴィゼルは瞳を輝かせ、安心したように微笑み、エスラールの腕の中でそのまま死にそうになる。 「ああ、喜べ。無事だから死ぬな! 生き返れ!」 「そういえばエスラールよ。君たちは昨日の夜中に二人そろって、どこに行ってたんだい」 ヴィゼルの声が生き返り、少しだけ真剣になった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |