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「なんだよ、その言い草。確かにエメザレは正常じゃないっぽいけどな、犠牲者に立候補したのは思いやりだったかもしれないだろ! ずっと昔から誰かをかばってきかたら、こうなったのかもしれないだろ! いろんな奴がこうなる原因を作ってきたんだろ。みんなで歪めておいて、頭がおかしいなんて言うなよ! そんなこと言う資格ねぇよ! 無責任なこと言ってねぇで助けろよ! なんで放っとくんだよ」

 エスラールの言葉にミレベンゼは手を止めた。怒るか、と思いきや呆れ果てたような顔をしている。それどころか、少し笑っているようにも見えた。


「別に放っといてないだろう。こうして掃除しにきたんだから。あのさ、あんたさ、一号隊がどんな生温かい場所なのかは知んねーけど、二号隊のルールは弱肉強食なんだよ。

というか、それが世の中を構築してる基本的なシステムなんじゃないのか? 弱い奴は死ねばいいんだよ。弱い奴の子孫なんて残してなんになるんだよ。可哀想だとか、正義だとか、良心だとか、そんなアホみたいなこと言ってたら生物は滅びるんだよ! 俺達は滅びるために生きてるんじゃない。繁栄するために生きてるんだ。それが生物としての正常な本能なんだ。

弱肉強食は、存続のための基本的な、根本的な、絶対的なルールだ。俺達は文明の中で生きて、独自の秩序や綺麗事を確立して、いいことしてる気になってるけどな、文明は自然の中にあるちっぽけな存在なんだよ。自然の掟に逆らって、理想ばっかり求めてたって最終的には破滅するんだ!

弱い奴は死ぬ。心の弱い奴も死ぬ。良心にうつつをぬかしてる奴も死ぬ。ルールを破ったのはエメザレの勝手だ。破滅を選んだのはそいつ自身だ。そんな奴を助ける必要はないし、誰も助けるわけがない」

「頭がおかしいのはお前らだ! 二号隊全員だ! ひとが困ってたら助けろよ! 誰かが悲しんでたら慰めてやれよ! 理由なんてどうでもいいんだよ! この世界はな、どうしようもなくくだらなくて、ろくでもなくて、救いようがなくてウンコみたいなところだけどな、お互い努力すりゃ、ちょっとは居心地のいい空間になるんだよ! そんな理屈こねて、死ねとか言って誰かが幸せになるのかよ! 俺は繁栄がなんたらとか、生物がうんぬんとか、本能がどうこうとか、そんなんどうでもいいし、それよりみんなが幸せな世界の方がずっとずっと好きだ!」

「あんた、うっぜーーーーーーーー! マジうぜー。半端なくうっぜー。つーか、キモいレベルだし。幸せな世界とか乙女かよ。一号隊ってみんなこんな頭がぱっぱかぱーみたいな奴ばっかなの? いいねぇ、幸せそうで。勝手に言ってろよ。
それよか、どいてくれよ。掃除の邪魔だし。エメザレ洗うから放せよ」

 エスラールはよほど言い返してやろうかと思ったのだが、それよりもエメザレを早くなんとかするべきだ。出かかった言葉をどうにか飲み込んで、エメザレをそっと床におろした。



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