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 目の前にひらけた場所が現れた。だがその光景の意味がよく理解できない。とりあえずエスラールが認識できたのは、サロンの真ん中にできた牛乳のような白い水たまりの中で、震えて泣いている裸のエメザレの姿だった。そのほかに人影はない。

 サロンの様子は一号寮とは全然違う。一号寮のサロンは毎日誰かしらが集い、例え誰もいなかったとしても、なんとなく多くのひとに使われている場所の気配がするのだ。

 だが二号寮のサロンにはそれがない。閉鎖的で簡素すぎる。一号寮にはたくさん置いてある木箱が一つもないせいかもしれない。とにかくただ広いだけの場所で、ちっぽけな椅子が一脚だけ隅のほうに置いてあるが、気軽に集える場所には思えなかった。

「なに……してんだよ」

 エスラールは駆け寄ってエメザレを起こそうとしたが、その白い水たまりの正体に気が付いて言葉を失った。ひどく生臭い。つんとする刺激臭も混じっていて、エスラールは思わず小さくえずいた。

 だがエメザレはその白い汚物の中に先ほどからずっと身体を横たえたまま、起き上がろうともせずに震えている。というか痙攣している。目は開いているが、エスラールを見ていない。

「おい! しっかりしろ。大丈夫か!」

 エスラールはエメザレを抱き起こした。エメザレの骨ばった肩は腐ったようにぬめっていた。右の眼球にはおそらく精子が張り付いていて、痛々しいほどに充血している。頭をゆっくりと起こすと、だらしなく開かれた口から、泡なのか胃液なのか精子なのかよくわからない液体をこぼした。

「あ……ぁっ……あぁ、ぅ……ふ、ぅ……」

 何か言いたいのかもしれない。おそらく過呼吸気味なのだ。言葉が音になっていない。

 綺麗な髪も顔もわけのわからない粘液で汚れている。上半身どころか下半身にまで鬱血痕は広がっていて、ペニスの先は擦れたみたいに赤く腫れている。

 死体のようだと思った。魂がない状態を死んでいると定義するなら、これはもう死体だ。

「誰がこんなことをしたんだ」
「……て、……ぉ、か……して」

“――犯して”

 エメザレはそう言ってすがってくる。
 もうこいつ、狂ってる。
 エスラールは失望した。




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