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 エスラールは変な夢を見ていた。空が斑点に覆われる夢だ。

 エスラールは一号寮の外廊下から空をぼんやり眺めていたのだが、大きい雲の塊がだんだんと細かく切れていき、斑点模様になっていくのだ。小さな雲たちは空を自由に漂いながら、ゆっくり雨雲に変わるように灰色になっていく。

 エスラールは振り返り寮に向かって「雨が降るよー」と怒鳴ったが、なんの返事もない。ガルデンは墓場みたいに静かだった。そのことに腹を立てつつ向き直ると、いつの間にか雲は赤黒くなっていた。

 そして気付くのだ。空が巨大なエメザレの上半身で形成されていることに。エメザレの皮膚を丁寧に剥がして、気が遠くなるほど伸ばして、誰かが空に貼り付けたのだ。たくさんの画鋲が見える。誰があんなものを掲げたのだろうか。なんとも暇な奴だ。

 そこで巨大な星のように無数に輝いている鬱血痕がいっせいに収縮を始める。大気が揺れ世界が心臓のように鼓動する。空気が漏れる音がする。空に穴があいているからだ。全てが流れていってしまう。吸い込まれてしまう。

 でも他人事のようにエスラールは空を眺めていた。

 息苦しくなってくる。空気がなくなっていく。一体あの穴の先にはなにがあるのだろうか。素敵なところだといいなぁと思う。でも、もう息が吸えなくなっている。空を――エメザレの皮膚を見ている。どうしてあんなに伸びるのか理解できない。皮膚を剥がされてエメザレは痛かっただろうか。だがきっともう綺麗な皮膚に変わったんだろう。

 横を見ればエスラールの隣ではエメザレも空を見ている。いつからそこにいたんだろうか。しかもなぜかエメザレは素っ裸 なのだ。仕方ないので目を逸らした。

「見て」

 とエメザレが言う。だからエスラールはエメザレの裸を見た。
 その身体は腐っていた。顔は綺麗なのに身体は駄目だった。炎天下に三日放置された動物の屍骸みたいに身体中から変な黄色い汁が出て、表面が熟れすぎた果実の皮をめくったようにブスブスと崩落している。湿ったカブトムシを鼻に詰めたような臭いがする。臭いどころか口の中にカブトムシの味が広がっていく。

 でも息ができない。死ぬ。

「穴はね、そこらへんに、世界中にいっぱい空いてるよ」

 エメザレは笑っている。

「てーか、超汚ったねーー!!」とエスラールは叫びたかった。

 だが息ができなかった。エスラールは暴言を吐けなかったことを無念に思いながら倒れて死んだ。



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