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「ねぇ、大丈夫?」

 エスラールはエメザレの腕を掴んで言ったが、エメザレは答えずエスラールの手を振り払って歩き続け、サロンから見えないところまで来ると、急に走り出した。

「ちょ、どこ行くのさ」

 今日はひたすらエメザレを追いかけてばかりいるな、と思いながらもエスラールはエメザレの後に続いた。どこに行くのかと思いきや、着いた先は二〇二号室で、エメザレは早く部屋に戻りたかっただけらしい。

「ごめん。俺がついてたのに」

 二人きりになった部屋でエスラールが謝ると、エメザレはやっと振り向いた。

「謝る必要はないよ。僕が君についてくるなと言ったんだ。君はちっとも悪くない。僕の方こそ君の立場を悪くさせてしまった。一号隊と仲良くやっていくのはもう無理そうだね」
 
 エメザレは悲しそうに笑っている。
 エスラールはエメザレが急に部屋まで走ったのは、泣きたいからではないかと思ったのだが、そうではないようだ。取り乱しそうにも見えない。あんなことをされたのに笑っているのだ。逆に違和感があった。
「あのさ、どうして抵抗しなかったの? エメザレだったら頑張れば勝てたはずなのに」
「僕には無理だよ。抵抗できないんだ」
「なんで?」
「どうしても。もう僕は抵抗できないんだ。エスラールも僕の身体見たんでしょ。これで僕がどんな奴かわかっただろ」

 その口調はエスラールを諭すようだった。

「でもそんな痕なんかすぐ治るじゃん。二号隊でどんな生活してたのか知らないけどさ、一号隊で俺と一緒に暮らしてればきれいになるよ。清く正しい生活態度を心がけて二ヶ月もすれば、きっと悪口だって言われなくなるって! 大丈夫!」

 エスラールがそう言うと、エメザレはちょっと驚いた顔をして、しばらく考え込んでから、拳を口に添えて噴出すように笑った。今までの笑顔と何も変わらないのに、エスラールにはエメザレが初めて本当に笑ったように思えた。

「エスラールってさ、すんごいポジティブなんだね。それってすごいね」
「そうかな。ありがとう」

 褒められているのか微妙だったが、エスラールは一応お礼を言った。

「そういえばさっき、友達がいないって言ってたけど、俺はエメザレと友達になりたいよ?」

 エメザレはその言葉を聞くと、急に悲しそうな顔をした。



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