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「ところで、あのさ、よかったらサロンに行かない? 整理し終わってからでいいからさ。一号隊の主要メンバーはだいたいサロンに集ってるから、挨拶がてら顔を覚えておいたほうがいいよ」

「……サロン」

 エメザレの顔つきが変わった。表情を読み取るのが難しいが、恐れているように見える。サロンに行けばエメザレはまた白い目で見られるだろうし、しかも今回は私語を慎む必要がない。容赦なく暴言を吐かれるかもしれない。よくよく考えてみれば当然の反応だ。

「大丈夫! 俺がずっと傍にいるから。紹介も俺がするし、エメザレを悪く言う奴には俺がびしっと言うよ」

「別に僕のこと、かばう必要ないよ? 悪口言われるの慣れてるし、今更なんとも思わないもの」

「でも今、恐がってたように見えたんだけど」

「うん。二号寮のサロンは恐ろしい場所なんだよ。幽霊が出るんだ」

 エメザレは声をひそめて、ぼそっと言った。

「幽霊?」

「そう。魂のない奴が毎晩さまよって泣いてるんだ。だから普通は近付かない」

「変な冗談言うなよ! 俺、幽霊とか苦手なんだから! それに一号寮のサロンには幽霊なんか出ないし。話はぐらかしてないで行こうよ」

「僕はいいよ。君だけ行ってくれば。僕、嫌われてるの知ってるもの。僕なんかとわざわざ仲良くしたがる奴もいないんじゃない? それにあんまり目立ちたくないし。君も僕にくっついてばかりいると変な噂されるよ。嫌でしょう。そういうの。仲悪いように見せておいた方がいいと思う」

 エメザレの言葉にエスラールは安心した。初対面から微妙に冷たい態度を取られていたので、嫌われているのかと実は心配していたのだが、それはエメザレなりの配慮だったようだ。エスラールはなんだか嬉しくなった。

「嫌われてるんじゃなくて、誤解されてるんだ。誤解をとけばいいだけの話じゃん」

「誤解? なんの誤解?」

 エメザレは怪訝そうな顔で聞いてきた。

「なんのって……それは君が……誰とでも寝るってやつ……」

「なんで誤解だと思うの」

 なんとなく攻め立てるような口調だった。もちろんエスラールに悪意はなかったが、
失礼なことを言ったのかもしれない。ちょっとした緊張が走った。

「なんて言えばいいのか、いい言葉が思いつかないんだけど、目が綺麗というか輝いてるというか、キラキラしているというか意思を感じるというか。とにかく初めて見たとき、エメザレは超真っ当な奴なんじゃないかと俺はそう思ったんだ」

「はぁ」

 とエメザレは半分息を吐くように言った。

「とにかく! 俺が皆にエメザレを紹介するからさ。行こうよ。早くエメザレに一号隊に馴染んでほしいんだ。ね、行こう」

 このままでは埒が明かない気がしたので、エスラールはチェストの真ん前に立っているエメザレの手首を掴んで引っ張った。特に強くしたつもりはないのに、エメザレは手首を掴まれた瞬間、むしろエスラールが驚くほど過剰に身体をびくりとさせた。

「……え、な、なに? 大丈夫?」

 エスラールはテンパって、掴んでいたエメザレの手首を放り投げるようにして放した。



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