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「そのユドのほうはサディーレを殺したこと認めてるの?」

「うん。認めてる。その場で認めたらしい。だからどう考えても状況的に、犯人はユドなんだよね。でも僕はどうしても引っ掛かるんだ。それに、気になることならまだ他にもある。殺人に使われたナイフがサディーレのものだったことと、口論の声も物音も全くしなかったことだ。最初に殺人現場に駆けつけたのはサディーレの隣部屋の奴なんだけど、なんの音もしなかったと証言している。突然叫び声がして、それで隣の部屋に行ったそうだし」

「えーと、最初からサディーレを殺すつもりだったなら、ユドは自分のナイフを持っていくはずだから、持っていかなかったってことは、殺すつもりじゃなかったってことか。じゃ殺意がない事故とか? だから口論することもなかったし、殺意がなかったから殺気に気付かなくてあっさり刺されたのかも」

「殺意がないのにめった刺しにしないよ。なんか内臓とか引きずり出してたらしいし。いや、それは尾ひれかもしれないけど。首から腹にかけて少なくとも十回は刺したくらいの損傷があったんだって。
殺すつもりがなかったのに殺してしまったのなら、なんらかのきっかけが必要でしょう。口論の末に、というのが一番自然な気がするけど口論はしていない。じゃあきっかけはなんだったのかって話になる。普通、唐突に思いついて、ひとをめった刺しにしないよ。ね、なんか変じゃない?」

「それはほら、口論じゃなくてもサディーレにチビとか呟かれてカッとなったとか。理由は特にないけどなんかムカついてきたとか。理由が納得できない場合だってあるわけだからさ。確かに変なところはあると思うよ。でもユドがサディーレを殺したって認めてるんだから、いくら不可解でもそれが事実ってことなんじゃん。殺してないなら、なんで殺したと言い張る必要があるんだよ」

「それはわかんないけど……」

 エメザレは小声をやめ、ため息混じりに言った。

「って、そういえば動機は?」

「動機も不明。というか、なくはないんだけど、いまいち弱い感じ。ユドは落ちこぼれだから苛め対象のだったんだけど、でもそんなの大護院時代からずっとそうだし、なんかユドも諦めてたみたいだし、どの程度の苛めだったのかは知らないけど、でもサディーレに特別苛められていたわけじゃない。サディーレはユドを苛めていた大勢の一人に過ぎなかったんだ。だからなぜ、わざわざ自分より圧倒的に強いサディーレを殺そうとしたのかわからないし、そもそもどうしてサディーレの部屋を訪れたのかも不明だし、とにかく気になることが多くて。それでなんで僕が転属って話になるのか、全く関係性が見えてこない」 

「エメザレは二人とは仲が良かったの?」

「いや、全然。二人ともまともに話したことはほとんどないよ。事務的な用件で話したことならあるけど、その程度」

 エメザレは控えめに肩をすくめた。

「なるほど。つまり、なんかよくわからないってことか」

 エスラールは勢いよくため息を吐いた。
 確かにエメザレの言うとおり引っ掛かる点はいくつかある。悪い方向に考えれば、ガルデンはなにかを隠している可能性がある。だから一号隊はおろか、二号隊にすら詳細を話さなかったとも考えられる。だが全ては妄想の範囲内だ。なんの根拠があるわけでもない。

「そういうこと。考えれば考えるほど変なところがでてきて、謎は深まるばかりだよ」

 どうやらエメザレは微笑むのが癖らしい。エメザレは困ったように微笑んで立ち上がり、私物整理の続きをし始めた。



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