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「とりあえず僕の知ってることを全部説明しておくよ。まず事件は三日前に起こった。三日前の夜十一時くらいにサディーレの部屋で叫び声がして、隣の部屋の奴が駆けつけてみると、部屋の中でサディーレが腹部をめった刺しにされて死んでいて、その死体の隣でユドがナイフを持って叫んでいた、ということらしい。らしい、というのは実は僕、その現場を見に行ってないからなんだけど。でも殺人現場に一番に駆けつけた奴に話を聞いてみたけど、聞けば聞くほどなんか奇妙というか、変なんだよね。僕の転属も含めて」

 エメザレは最後のほうの声をひそめた。

「変って?」

 普通に話す程度では、隣に声はもれない気がするが、エメザレにつられてエスラールも声をひそめた。

「サディーレはロイヤルファミリーの一人なんだよ」

「ロイヤルファミリー? なんだそれ?」

 聞きなれない言葉にエスラールは顔をしかめた。

「ロイヤルファミリーってのは二号隊での成績上位者の名称だよ。二号隊では偉さが年功序列じゃなくて成績順なんだ。成績は学力と戦闘力の総合で決まる。だから、前期一年が前期五年より権威を持っていることもある。もちろん稀だけどね。一号隊とシステムが根本的に違うみたいだから不思議かもしれないけど、成績上位者に特権をつけることで、下位者は上位になれるよう頑張るから、能力を底上げするにはいい手段なんだと思うよ。

で、サディーレって奴はそのロイヤルファミリーの一人だったんだ。十八で、体格はいいほうだった。背は百八十センチ以上あったと思う。ロイヤルファミリーなのを鼻にかけてて、いつも威張り散らしてたから、ロイヤルファミリー外からはかなり倦厭されてたよ。でも実はロイヤルファミリーの中では下位だったんだけどね。それでも二号隊の中でかなり強いことには変わりない。

それに対してユドは僕たちと同じ十六歳。発育途上のチビで落ちこぼれだ。ついでに気が弱くて、ひとの目を見てまともに口もきけやしない。訓練で真剣を握っただけで、緊張のあまりぷるぷる震えてるような奴なんだ。とにかく軍人には全く向いてないんだよ。間違いなく最弱の部類に入る。二人には圧倒的すぎる身体能力の差があるんだ。例えユドがナイフを持っていて、サディーレが丸腰だったとしても、殺すのは無理だと思うな」

「もしかして、寝てたとか?」

「寝ていて刺されたのならベッドの上に血が付いてる。でもサディーレが死んでたのは床の上でベッドに血痕はなかったって」

「なら不意打ちだったんじゃないの? 例えば後ろにナイフを隠したまま突進して刺したとかさ」

「それは手は色々あると思うよ。偶然とか奇跡とか世の中にはたくさんあるわけだし。事実としてサディーレは死んでいるんだから、ユドはサディーレを殺せた、ということになるんだけど。でもサディーレは僕たちと違って、もう何度も戦場へ行っている。ここが戦場じゃないにせよ、危険に慣れていて回避する手段だって知ってるんだから、向かってくるナイフに対して冷静な判断ができたはずだし、それに、身体が勝手に反応してとっさに避ける気がするんだ。例えナイフが後ろに隠されていたとしても、気配に気付かないってのが、どうにも納得できないというか……。だって僕たち軍人なんだよ? 普通、相手が殺気を帯びてたらわかるでしょ」

「まぁ、確かに。変と言われれば変だ」

 毎日訓練をしていると察する能力というのは半強制的に身についてしまうものだ。むしろそういった危険を察する感覚を鈍らせないために、休みなく毎日訓練をさせられているといっても間違いではない。

 被害者と加害者が反対であればなんの不自然も感じないが、ひとの目を見てまともに口もきけないような奴が、はたしてナイフを隠し、殺気を殺して冷静に接近できるものだろうか。

「でしょ?」

 エスラールの同意が嬉しかったのか、エメザレは小声を保ちながらも興奮気味に言った。



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