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 ずいぶんと間が空いてしまいました。中間調査と呼ばれる試験があり、そのことばかりが気になっておりました。一言で報告すると失敗しました。こうして日記を書く気力を奮い起こすのに一週間もかかりました。いや、気力などありません。抜け殻です。私の絶望は酷く、言葉にするのも辛いです。まともな顔をしたまま、叫ぶこともしなかった私を褒めたいほどです。

 私はおそらく王家を追放されることでしょう。私はずっとこの日を恐れていました。自分の無能がついに証明される日が迫っています。私はどうするべきでしょうか。

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 気分が悪い。寝ます。宴会には行かない。今日も曇りでした。

(中略)

 ヴォルフィード、私は生ゴミの中で生まれました。ベルリナオという大きな市場には、肉や卵やミルクや遠くから運ばれてきた痛んだ魚などが売っていて、簡易な屋台がたくさんあり、腐って駄目になった食材や残飯を捨てる大きなゴミ捨て場が近くにあって、そこは飢えた浮浪者たちが集う食堂のようなところでしたが、私はそこに捨てられていました。

 浮浪者の一人が、腐った血や肉にまみれてヘソの緒をぶら下げている私を、新鮮な死んだ子豚だと思って拾い上げてくれました。子豚ではないとわかり、全く動かない私をどうしようかと迷ったあげくに、生ゴミの中に戻そうとすると、私はまるで今生まれたかのように泣き出したのだそうです。優しい浮浪者は私をシグリオスタ小護院まで連れて行ってくれ、私を渡す時に、その話をして去っていきました。

 モフィスという教師は私を特別に可愛がってくれました。モフィスはその時の話を、暗示のように何度も私に聞かせては、最後に「英雄は生まれた時から伝説を持っているものだ。お前は強いからきっと最後には英雄になれる」と言って締めくくりました。
だから私も自分は強いのだと信じてきました。私は生ゴミの中で死んだのではなく、そこから生まれた強い存在なのですから。伝説を持って生まれてきたという事実は絶対的な自信に繋がりました。私の全能感はそうして生まれたのだと思います。

 限界の輪郭が見える前までは、私はずっと自分が選ばれた存在だと思い込んでいました。一番強い孤高の戦士になれる気がしていました。でもそうじゃないことに気付いたら、私の内に眠る本当の私と目が合って、怖くなりました。そしてその私は、王家の追放という形で、表の世界に誕生することになるのです。

 ああいう私は殺さなくてはなりません。ああいう私は死ななくてはなりません。私の強さを奪う存在は、それが例え自分自身であっても、けして許すことはできません。弱い私が、私を完全に覆いつくす前に、誰かの目に触れる前に息の根を止めねばなりません。



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