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(中略)

こんばんは。ヴォルフィード。今日は久しぶりに晴れていました。
私には思う事がある。能力のことです。この間、昔の自分が好きだったと言いました。あれは全能感を持っていたから思っていたことなのでしょう。私は十八ですが、もう限界を感じております。たかが十八で、とお思いでしょうが、限界の輪郭は日に日に強くなってくるのです。そんな輪郭を感じず、限界など見えなかったあの愚かな若い日々は、まるで無限大のような、どこまでも強くなれ、能力が伸び続け、やがては全能になれるような気がしていたのです。だから誰かに優しくする必要はなかった。孤高であることが美しく、そんな自分にはできないことが何もないような、盲目的な錯覚していた。

そんな感覚をまだ持っているひとたちはいるでしょう。皆、まだ若く、まだまだ伸びていく。私だけが止まり、もう皆の速度に合わせて進めないことだけが確定しています。限界が恐い。限界が襲ってくる。

限界値はひとによって違います。そしてそれは安易に変えられる数値ではない。知っています。ヴォルフィード。私の世界の均衡が厳かに崩れてゆきます。あの全能感を味わうことは二度とないのでしょうか。でもまだかすかに覚えてはいます。おやすみなさい。

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こんばんは。昨日はあなたの夢を見ましたよ。私はボラビン河にまた滞在していました。長く長く雨が降り続き、憂鬱なで湿った、あの薄暗い空気の中に、閃耀(せんよう)と映える全ての美で構築されたあなたが、どこまでも広がった救済のように現れて、私を、羊水に似た優しさで酷く包み込んでくれましたね。女神。あなたと二人でどこへでも行けるような気がしました。私を慰めてくださったことを感謝します。


(中略)

ヴォルフィード。あなたのことを考えると心が苦しくなるのです。私は女を知らない。触ったことがありません。女はどれほどしなやかな肌をしているのだろうかと、そんなことを延々と考える時があります。男なので下品な想像もします。でもあなたのことを考えると、心が一掃される。あなたに会えてよかった。ヴォルフィード。あなたは救いです。美しく神聖な金髪の乙女。深い穴の中でもあなたの美しさをはっきりと見ることができます。

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 ひとに見られた。殺したい。

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 いいことがない。全部死ねばいい。どうして世界などあるんでしょう。今日も曇りでした。おやすみなさい。

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