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 本は一冊一冊がずっしりと重く、大きい。羊皮の表紙は綺麗に色が塗られ、金属で装飾されたものもある。中身はダルテス文字で書かれているので、読むことはできないが、そこに書かれている物語はどれも壮大な感じがした。

 活版印刷が普及してからというもの、本はそこまで高価ではなくなったらしいが、庶民からすれば高いことには変わりないだろう。触っていてそれがわかる。だが人気はなさそうだ。本はどれも新品のように美しかった。

 ダルテス語がわかる奴なんてほとんどいない。エスラールが知っているダルテス語は『おはよう』の『ウンバホ』と『こんにちは』の『ウンポーコ』だけだ。図書室にはダルテス語の辞書があるから独学で学ぶことはできるだろうが、訓練のカリキュラムにシクアス語は入っていてもダルテス語は入っていない。それにダルテスの古典なんて題名すら思い浮かばない。唯一読んだことがあるのは『ラルレの空中庭園』という古い児童文学のエクアフ語訳だが、あれは古典に属するのだろうか。よくカイドノッテ大護院で読まされたことを思い出した。

 それにしても、誰も読むことのない本をこうして膨大に置いてなんになるのだろう。クウェージアらしい国力自慢だろうか。

 本当に無駄が多いな。エスラールはそんなことを思いながら黙々と本を開いては閉じ、開いては閉じた。見分けるのは簡単だ。サディーレの日記帳はエクアフの言葉で書かれている。エスラールはエクアフ文字で書かれた本を見つければいいだけだ。単調な作業が続いた。

◆◆

「エメザレはいるか? エスラールは?」

 図書室にそんな声が響いた。おそらくサイシャーンの声だ。エスラールは作業を中断して出入り口付近を見ようとしたが、本の棚に阻まれここからでは見えなかった。
「います。ここに。二人ともいます」

 エメザレは梯子に登り、上にいたのでサイシャーンの姿が見えたのかもしれない。エメザレが出入り口のほうに向かって答えた。

「こんなところにいたのか」

 サイシャーンは珍しく息を切らしていた。



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