2/12


「なんじゃこりゃ……」

 エスラールの前には本の壁が立ちはだかっていた。ダルテス文学の古典スペースは一番奥まったところにあった。図書室の天井はやたらと高い。四メートルくらいはあるだろうか。壁に接していない本棚はせいぜい二メートルの高さだが、壁際の本棚だけは四メートルの壁の上部まで貼り付けるようにして棚を重ねてあるのだ。完璧な城塞のように聳え立つ四メートルの本棚、それが壁一面に連なっている。圧巻の光景だ。

「一体何冊くらいあるんだ。これ」

「さぁ。一万はないと思うけど、それに近いくらいじゃない。君と二人で探せば朝までに間に合う。エスラールは下から探して。僕は上を探す」

 エメザレはさっそく端に立てかけてあった梯子(はしご)に昇り始めた。

「でも、そもそも図書室に日記があるかどうかもわからないし、本当にダルテス文学の棚にあるのか、確証がないぞ」

「うん。確証はないよ。だけどさっき、君の言葉を聞いて、あるイメージが浮かんだんだ。ユドが自分が死ぬと思い込んでいたように、サディーレも自分が死ぬことを知っていたんじゃないかって。だから日記を隠そうとしたんじゃないかって。サディーレは日記帳を守りたかったんじゃないかな。自分が特別であると証明してくれた、ただ一つの所有物だから。そんな気がした。妄想だけどね。それにミレーゼンの能力はすごいよ。僕は何年もシマ先輩のそばにいたけど、シマ先輩の気持ちなんて全然わからなかった。でもミレーゼンにはわかるんだ。あれはもはや超能力の域だよ。ミレーゼンのことは信じてないけど、彼の能力は信用できる」

「わかった。その勘を信じよう。この棚を探そう」

 エスラールはそう言って屈むと、一番下の段の端から順々に見ていくことにした。


- 161 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP