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 それはフェオの声だった。振り向くとフェオは彼につられたのか涙ぐんでいる。

「いいんだ。僕は強いから。君たちよりも、ずっとずっとずっと強いから。そんなの当たり前なんだ」

 エメザレは立ち止まると振り返り、とても穏やかな顔で微笑んだ。
 それは初めてしっかりと見えた、エメザレの姿だった。あの時のエスラールが見た、泥に埋まっているだけで、ちっとも汚れていないエメザレなのだと思った。

「ずるい。なんかお前、超かっこいい!」

 萌えたエスラールがたまらずにエメザレに抱きつくと、結構無慈悲にはたかれた。


◆◆◆

 結局、フェオたちからは、手掛かりになりそうなことは聞き出せなかった。後はサディーレの子分どもに話を聞くしかない。それで駄目なら今度こそ事件の解決は暗礁に乗り上げてしまう。エメザレの足取りは重い。あまりサディーレの子分と話したくないのかもしれない。

「犯人、やっぱりユドで合ってるんじゃないか? ユドは自分が死ぬと思って自暴自棄になってて、反王家勢力も結局作れなくて、憧れだけが膨れ上がった。そんな時に、大切などんぐりが入ったペン入れをサディーレに拾われてしまって、取り返しに行ったが返してもらえず、それがきっかけで今まで溜め込んできた感情が爆発して超人的なパワーを覚醒させサディーレを刺した。完璧じゃないか!」

 エスラールはもう考えるのが嫌になってきて、適当に言って納得した。

「日記はどこいったの」

 エメザレが呆れた顔をした。エメザレの顔も疲れている。

「自分でどこかに隠したんじゃないか? ほらミレーゼンに一度見つかったから、恥かしくて自分の部屋に置けなくなったのかもしれない」

「あるかもしれない」

 エメザレは立ち止まった。エスラールがどういうことだよ、と口を開く前にエメザレは「行こう」と言って全力で走り出した。

「どこへだ!」

 エスラールは必死にエメザレを追いかけ、毎度ながら聞いた。

「図書室! 木を隠すには森の中、本を隠すには図書室の中だ。サディーレは死ぬ直前に図書室にいたじゃないか」




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