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 食堂につくと、丁度一号隊が揃って椅子に腰掛けるところだった。
 前期一号隊は五百人ばかりいる。各年齢に約百人ずつだ。食堂の長テーブルは十卓あり、座る場所は年齢ごとにわけられていた。

 けして食堂自体はせまくないのだが、五百人が座ると食堂内の人口密度はひどいことになる。しかも四十人掛けの長テーブルに、五十人が座らされているせいで結構窮屈なのだ。全ての窓が全開になっているというのに、食堂内はねっとりとした暑い空気に包まれていた。

 彼らは入り口の近くの空いている席に座った。エスラールの向かいには、冴えない顔というのが唯一の特徴という若干憐れな存在のラリオが座っていて、ラリオは自分の隣に座ってきたエメザレを遠慮気味に見つめてから、控えめに指差し、エスラールに向かって「誰?」と小声で聞いてきた。

 ふと見渡すとラリオの周りもなにやら興味深げにエメザレを見ていた。
 エメザレはそんなラリオの顔を見てにっこりと笑った。エメザレは有名だし、顔が目立つ。エメザレ並みに優れた顔立ちの持ち主は早々いない。ラリオはそこでエメザレが誰か気付いたらしく、あからさまに顔色を変えた。

「え? え? なんで? どうして? エメザレ? エメザレだよね?」

 食事時であろうと、本来であれば私語は慎まなくてはならない。ラリオは驚いていたが、もちろん大声を出さなかった。

「エメザレは今日から、一号隊に転属になったんだって。仲良くしてやって」

 エスラールは小声で返したが、周りにも聞こえたようで、広範囲から囁くような小声が湧き立ち、静かなざわめきが起きた。

「食前の祈りの前に、告達事項がある」

 とサイシャーンの声が食堂に響いた。サイシャーンは最前列にいたが、わざわざ真ん中までやってくると、そこで立ち止まった。

「注視」

 その号令で食堂は耳鳴りがするほどの静寂に包まれた。

「軍事教育総監の命により、これまで二号隊所属だったエメザレは一号隊に所属することとなった。一号隊の信条は『仲間のために生き、仲間のために死ね』だ。信条を否定するような行動は自重するように。以上」

 サイシャーンが口を閉じた途端に、食堂内は先ほどの静寂が嘘のように騒がしくなった。当然ながら歓迎のどよめきではない。エメザレに向けられる不快や嫌悪の眼差しを、近くにいたエスラールは充分感じ取ることができた。心臓がぎゅっと押しつぶされるような、不愉快な空気だ。しかしエメザレ本人は全てのことを無視して、うつむきもしないで、穏やかに微笑んでいる。

「俺、あんな淫売のために死にたくねーし」

 誰の声かはわからないが、エスラールの後ろからそんな声が聞こえてきた。エスラールに聞こえたということは、エメザレにも聞こえただろう。



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