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「僕のこと怒ってる?」

 どうしても離れたくないとでも言うように、エメザレは両手でシマの顔を包み込んだ。

「もうあなたのそばに居られないのが辛い」
「俺は弱い奴が嫌いなだけだ」

 シマはエメザレの手を払いのけた。エメザレの悲しそうな背を超え、シマはエスラールに向かって歩いてくる。エスラールに用があるわけではないだろう。通り過ぎるだけだとわかっていても、無意識に構えてしまう。昨日とは違い、取り巻きはいない。それでもシマの圧倒的な雰囲気は全く変わらなかった。

「詮索はとめないが、争いは起こすな」

 すれ違いざまに案外優しげな声でシマが言った。

「あの、すいません。サディーレは日記を書いていたそうなんですが、日記のことなにか知りませんか……」

 エスラールは、できるだけ冷静に言ったつもりだが、声が僅かに震えていた。シマはエスラールの言ったことを考えるように少しの間を置いて、二度だけ首を左右に振ってから、ゆっくりと去っていった。

「行こう。エスラール」

 エメザレは背を向けたまま言った。振り返ると、シマの、どちらかといえば細い身体が、当然のようにさっきよりも遠のいていた。


◆◆◆

 彼らは、まるで自分たちが誰の迷惑にならないよう、できるだけ慎ましく存在しようとしているかのようだった。ユドが属していたグループは、一番端っこの長椅子に、六人が身を寄せ合って話をしているが、その図だけでも、なぜか彼らが弱々しいことを理解できた。丸められた背中は怯えているように見え、同時に警戒しているようも感じられる。いつ何時、攻撃されたとしても、きっと準備はできていて、彼らは固い小さな虫のように、丸まってじっと耐えるのだろうと思った。

 エメザレとエスラールが彼らの前に立つと、彼らはお喋りを一瞬でやめた。強烈な警戒心を向けられたが、すぐに解かれた。彼らにとってエメザレは敵ではないらしい。
 右端の、一番背が高く涼しげな目元をしている奴が、エスラールの顔を見て笑った。

「なんだよ、エメザレ。もう彼氏ができたのか。シマ先輩といい、案外、顔は贅沢いわないんだな。すんごい顔だ」
「おい!」

 彼の率直な言動にエスラールはちょっと凹んだ。



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