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「何に?」
「ロイヤルファミリーに。二号隊の伝統に」

 しばらくの沈黙があった。その間、エメザレはユドのことをじっと見ていた。

「僕も反逆する。君と一緒に」

 ユドの思いがけない申し出に、エメザレは驚きながらも微笑んだ。

「僕の行為は常に自己完結的なんだ。だから誰の理解も協力も救済も必要ない。この反逆が成功する必要すらない。これは僕だけの問題だ。君の力は必要ない。でもありがとう。このことは忘れない」

 ユドとの会話はこれだけだった。

◆◆◆

「反王家勢力はユドの頭の中で勝手に作られた組織だ。もしかしたら、本当に作りたいと思ったかもしれない。でも、ユドにそんな、組織を発足できるような力はない。ロイヤルファミリーに勝てる可能性のないユドの提案に、乗るような奴もいない。だから僕は確信している。反王家勢力とは、ユドと僕を指しているんだ」

「なるほど。どうりで見つからないわけですね」

 月の男もエスラールもしばらくぽかんとしていたが、やっとエメザレの発言を整理できたらしい月の男が、呻くように言った。

 エスラールはユドのことを考えた。
 ユドは四年間、エメザレに感謝し続けてきた。そしてある日、その理由を聞き、エメザレの行動に、ロイヤルファミリーとその伝統に抵抗するという、静かなる目的が眠っていることに気がついた。その後、どのような行動をしたのかはわからないが、反王家勢力はユドの妄想でしか実現しなかった。

 そしてペン入れを返してもらいにサディーレの部屋を訪れたユドは、部屋の中で死んでいるサディーレを発見した。月の男の話が真実だとすれば、ユドがサディーレの部屋に入ってから、ユドの叫び声がするまでに十五分強の間がある。ユドはその間に、この計画を組み立てた。存在しない反王家勢力を作り上げ、エメザレを助けるのと同時に、おそらくエメザレの自己完結的な目的までもを、サディーレの死を利用して完遂しようとした。絶対に不可能と思われる、ユドがサディーレを刺したという事実が、架空の反王家勢力を本当にあるように見せていたのだ。

 ユド。
 エスラールは心の中でユドの名を呼んだ。

「総監に知らせてあげれば喜ぶよ。じゃ、どうもありがとう。月男くん」

 エメザレはエスラールに手招きすると、月の男に背を向けた。

「お前がユドに話した理由は本当なんですか。エメザレ」

 月の男がエメザレを名前で呼んだ。

「本当だよ」

◆◆◆
 
「てゆーかさぁ、エメザレさぁ、俺にくらい全部教えてくれてもいんじゃない? なんで情報小出しにすんだよ」

 さっきから完全にエメザレのペースに乗せられている。なにかもう翻弄されていると言ってもいいくらいだ。エスラールは、相変わらずどこに向かっているのかわからない、エメザレの背中に愚痴った。



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