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「月男くん、これから総監に会いに行くんだよね。なら、もう安心していいって伝えて。もうなにも起こらないから」

「どういう意味です? 早く教えなさい」

 エメザレの焦らすような回答に、今まで強い感情を表さなかった月の男が、ついに感情をむき出しにして大きな声を出した。まるで月の男の苛立ちを表すように、長いおさげが激しく揺れる。

「怒らないでよ、月男くん。この事件はそこまで複雑じゃない。なんせ、反王家勢力は僕なんだからね」

「なんだってーーー?」
「ど、どういうことです?」
 エスラールと月の男は同時に叫んだ。

「こういうことだよ」
 エメザレはさらに続けた。

◆◆◆

 遡ること二ヶ月ほど前。ちょうどブリンジベーレの遠征が決まった頃のことだった。エメザレは廊下でユドに話しかけられた。

「どうして君はそんなことをするの?」

 “なぜ自ら宴会の犠牲者になっているのか。”興味本位でその質問をしてくる奴は多かった。いつもならば、さあ、とだけしか答えない。

 だが四年前、ユドに好きだと言われことをエメザレは覚えていた。その後になにがあったわけではない。おそらくユドも、そんなことは忘れているだろう。
 それでもエメザレの中でユドは特別な枠に入っていた。特別といっても、とてもささやかだ。素敵な思い出がたった一つあるだけなのだ。

「僕は反逆しているんだ」

 エメザレは答えた。それは真実を全て表したものではなかったが、事実の一部で、けして嘘ではなかった。四年前に好きだと言ってくれたことに対しての、エメザレなりの感謝の仕方だった。



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